■元米食品医薬品局(FDA)マシュー・ホルマン氏に聞く
煙やにおいが少ないとされる「加熱式たばこ」。その普及が世界に広がる大きなきっかけとなったのは、2020年に米フィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)の「アイコス」が、米食品医薬品局(FDA)から「曝露(ばくろ)低減(体内に入る有害成分が紙巻きより少ない)たばこ製品」として販売許可されたことだ。FDAの決定に関わり、現在はPMIに籍を置くマシュー・ホルマン氏に、決定の経緯や加熱式たばこの未来について聞いた。
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――決定の経緯は
「米国での販売許可を求めてPMIが提出したデータは、紙巻きたばこの使用者がアイコスに切り替えた場合、体内に入る有害成分が大幅に減るというものだった。これを基に諮問委員会が科学的に議論した。さまざまな意見が出たが、データを見れば曝露低減製品であることは明らかで、それを表示することで消費者がより良い意思決定ができるメリットがあるという判断を8対1で下した」
――反発はなかったか
「米国で初めて販売が許可された加熱式たばこだったため、懸念を示す利害関係者もごく少数いた。ただFDAの決定により、加熱式たばこの蒸気から体内に入る有害成分は、紙巻きより低減されるという情報が、消費者に伝えられるようになった。消費者は情報を得た上で、たばこ製品を使う判断ができる」
――世界保健機関(WHO)も懸念を示した
「WHOの懸念は主に3つある。第1にリスクが低減されるからといって害がないわけではない点。FDAも、この商品が安全で害がないわけではないと言っている。2点目は、体内に入る有害成分が少ないといっても直ちにリスクが低いわけではない点。疾病リスクが減るかどうかのデータは十分ではなく、この懸念は理解できる。3点目はアイコスのエアロゾル(微粒子が霧状に漂う蒸気)に含まれる一部の化学物質が、紙巻きたばこより高いレベルであった点。FDAもデータを基に検討したが、これらの化学物質の有害性は低いと判断した」
――日本では紙巻きから加熱式への切り替えが進む
「素晴らしいことだ。加熱式たばこの利点の一つが、紙巻きを吸っている人が求めるような経験を提供できること。米国でも切り替えが進んでほしい」
――規制当局から転職したのはなぜか
「公衆衛生を改善するという私の目標をグローバルなたばこ企業がかなえているのを見て、PMIで仕事をするほうが公衆衛生により大きな変化を起こせるのではないかと考えた。日本のように世界中で切り替えが進んでいけば、煙のない社会がより早く実現するだろう」
マシュー・ホルマン
2000年、米メリーランド大カレッジパーク校で博士号(生化学)取得。FDAに20年間勤務し、喫煙の健康リスク研究や禁煙支援などの要職を経験。22年9月、PMIの米国科学渉外&規制戦略バイスプレジデントに就任。