国会での議論が深まらない。昨年暮れ、安全保障関連3文書が閣議決定され、防衛費の国内総生産(GDP)比2%への増額や反撃能力の保有が決まった。その際、「唐突だ」「十分な議論がない」などの批判が上がった。国会が開催されても防衛財源以外の本質的な論議は一向に盛り上がらない。
「フィクション」と決別
今回の安保3文書は、安全保障が防衛省の専権事項ではなく、国家の総力を挙げて対応すべきものだと改めて示した優れた戦略文書である。だが2つの欠点がある。核抑止戦略が欠けていること。情勢に追随できない防衛の基本政策を前提にしていることである。核抑止戦略の欠如については月刊正論4月号に書いたので、ここでは後者について述べる。
これまで防衛力整備の方向性を示すものとして、6度にわたり「防衛計画の大綱」が策定された。3度目までは「基盤的防衛力」構想に基づいていた。基盤的防衛力構想とは「脅威」に「対抗」するものではなく、我が国自身が「力の空白」とならぬよう必要最小限の防衛力を保有するものである。いわば戦いは「フィクション」であったといえる。4度目以降は「動的防衛力」「統合機動防衛力」「多次元統合防衛力」と状況適応型の防衛力構築を目指したが、基盤的防衛力構想から完全には決別できなかった。