<独自>通報から到着まで3時間…遅れた海保の初動対応 海保の資料で詳細判明 知床事故1年

北海道・知床半島沖で発生した観光船「KAZU Ⅰ(カズ・ワン)」沈没事故は23日で1年の節目を迎える。乗客20人が死亡、6人が行方不明となった事故は海上保安庁の救助の初動対応が遅れ、118番通報を受けてヘリコプターが現場に到着するまで約3時間、巡視船や巡視艇の到着は約4時間半もかかった。「海保の一丁目一番地」(幹部)ともいわれるレスキューは、なぜ時間がかかったのか。産経新聞が入手した海保の資料から当日の詳細な動きが明らかになった。

事故が起きた昨年4月23日は午後1時13分に救助要請の118番通報が入った。釧路航空基地には9分後の同22分に出動指示が出されたが、所属ヘリ2機のうち1機が整備中。もう1機は哨戒任務にあたっていた。

海保の資料によると、ヘリは午後2時3分に現場から80キロ弱の中標津空港を離陸したが、向かったのは現場ではなく、釧路航空基地だった。燃料を補給し潜水士2人を乗せるためだ。午後3時20分に現場から約160キロ離れた同基地を出発。現場海域に着いたのは、道警ヘリの到着から15分後の午後4時半だった。

各海上保安部や保安署に所属する巡視船や巡視艇も天候の影響などで到着が遅れた。現場から西に約80キロの網走では巡視船「ゆうばり」が午後2時に出港を試みるも荒天のため断念。海保関係者は「風が強く離岸できず、車に隊員を乗せ知床に向かおうとしたが、雪に阻まれた」と明かす。

現場にほど近い羅臼に停泊していた「てしお」は陸上業務があったため乗務員を非常招集する必要があり、午後3時に出港。20分後に紋別から巡視船「そらち」も急行したが、「大しけの中、フルスピードで航行することができなかった」(海保関係者)ため、到着に時間がかかった。

結果的に最初に到着したのは遠方の根室から知床岬を回る形で派遣された「くなしり」で、午後5時55分に現場海域に到着した。

海保では全国の大半の地域に1時間以内で到着できるよう機材と人員が配置されているが、事故は海保の航空基地から離れた「エアレスキューの空白地帯」で起きた。海保は救助体制の強化に着手し、今月10日には、ヘリで出動し救助活動にあたる「機動救難士」9人を釧路航空基地に配置。年度内に同基地に3機目のヘリを追加配備する。

一方、自衛隊に災害派遣を要請するまで最初の通報から6時間以上もかかった。自衛隊は①緊急性②公共性③非代替性(他に適切な手段がない)-の3要件を満たした場合などに派遣される仕組みだが、海保は情報が寄せられた段階で自衛隊と調整するなど運用を見直している。(大竹直樹)

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