「人柱行政」から「予防行政」への転換を 安部誠治・関西大名誉教授 知床事故1年

安部誠治・関西大名誉教授
安部誠治・関西大名誉教授

北海道・知床半島沖の観光船「KAZU Ⅰ(カズ・ワン)」沈没事故から23日で1年の節目を迎えた。小型旅客船運航の安全性向上に必要な対応について、国土交通省知床遊覧船事故対策検討委員会の委員を務めた安部誠治・関西大名誉教授(交通政策論)に聞いた。(聞き手 大竹直樹)

安全上、重要な手順や規則を守っていなかったとしてもすぐ大きな事故が起きるわけではなく、結果的に、不安全な行動が見過ごされることになる。今回の沈没事故でも、運航会社の杜撰(ずさん)な管理体制などが社会に認識されるのは、悲惨な事故が起きてからだった。

水温の低い知床の海に放り出されれば死に直結することは認識できたはずだ。にもかかわらず、事故が起きるまで、小型旅客船には救命いかだの搭載が義務化されていなかった。

国土交通省の有識者検討委員会では必要な安全対策を議論し、小型旅客船への救命いかだ搭載や船が浸水しない構造にすることなど制度の見直しを進めた。他の事業者はひとごとと思わず、当事者意識をもって安全対策を考えてほしい。

事故の一因となった甲板のハッチの不具合については、日本小型船舶検査機構(JCI)の検査が形式的なチェックになっていた可能性がある。検査員はハッチの重要性をしっかりと認識していたのか。力量に問題があった可能性もある。

事故の教訓を普遍化し、再発防止につなげることが大切だ。そのためにも、大きな事故が起きてから安全対策を見直す「人柱行政」から、事故の芽をあらかじめ摘む「予防行政」に転換しなければならない。

「社長の過失責任否定は困難」 捜査は長期化の様相 知床事故1年


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