「社長の過失責任否定は困難」 捜査は長期化の様相 知床事故1年

多くの人命が奪われた北海道・知床沖での観光船沈没事故は23日で発生から1年。事故を巡る捜査では、悪天候が予想される中で出航の判断を行った運航会社「知床遊覧船」の桂田精一社長(59)の過失責任を追及できるかが焦点となっている。船体や同社の安全管理に不備があったことは明白だが、立件には運航と事故との因果関係を緻密に立証していくことが欠かせず、第1管区海上保安本部(小樽)は業務上過失致死容疑で慎重に捜査を進めている。

運輸安全委員会が昨年12月、原因を解析した経過報告を公表。報告によると、沈没した「KAZU Ⅰ(カズ・ワン)」の甲板にあるハッチ(昇降口)のふたが密閉されないまま出航。高波による揺れで開放され、外れたふたが当たって客室の窓ガラスを破損し、大量の海水が流入して沈没したと推定した。

「ハッチのふたの不具合がなければ沈没は避けられたのか。甲板に高波が打ち込むほどの気象状況だったのか。事故当時の目撃証言が得られないだけに、事実の特定に時間がかかるだろう」。捜査関係者の一人はこう明かした。1管は安全委の経過報告に基づき、事故直前の波の高さや風速などから船体がどのような揺れ方をしたか解析を進めているといい、捜査は長期化の様相を呈している。

事故当日は強風注意報や波浪注意報が出ており、地元の漁船は出漁を見合わせた。一方、桂田社長は出航前、死亡した豊田徳幸船長=当時(54)=と打ち合わせた上で、状況に応じて途中で引き返す条件付き運航を決断したとされる。

出港前の船体の整備は船長に責任があり、1管は豊田船長を容疑者死亡のまま書類送検する方針だが、桂田社長についても立件を視野に入れており、出航の判断の是非などが焦点となる。

船長になるには通常、甲板員として3年程度の経験を積む必要があるが、桂田社長は豊田船長を約1年で船長に昇格させた。業務上過失致死傷事件に詳しい元検事の高井康行弁護士は「船長の経験が浅く、的確な気象判断や操船ができるだけの能力が備わっていないことを知りながら出航させたうえ、その後の状況も確認していなかった桂田氏の過失責任を否定することは困難だ」と指摘した。


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