理美容機器、化粧品、医療クリニックの設備機器製造販売を手掛けるタカラベルモント(大阪市中央区)は「事業を通じてすべての人が自分らしく、美しい人生をかなえられる社会づくりに貢献したい」との思いを込めて、2019年にパーパス(企業目的)として「美しい人生を、かなえよう。」を制定した。美と健康の事業領域で世界を視野に更なる進化を目指すタカラベルモントの人々の取り組みを追った。
世界を目指すアスリート社員の挑戦
東京都港区のタカラベルモント東京本社人事教育部にパリ大会出場を目指す一人の女性社員がいる。2022年1月に入社したホッケー女子日本代表の及川栞さん。同社初のアスリート社員だ。東京ヴェルディホッケーチームの一員でもある。
子供のころ、美容師になる夢を持っていたという及川さん。日本代表の合宿など練習がハードになるときは出社時間も限られるが、タカラベルモントの歴史や商品についての知識を深め、競技を通じて多くの人に同社の魅力を伝えることを常に考えているという。「アスリートとしてではなく同僚として迎え入れてもらっていることが何よりうれしい」と及川さんは話す。
世界を舞台に活躍してきた及川さんのアスリートとしての経験と人脈は同社にとって大きな資産になっている。人事教育部に配属したのも及川さんのチームビルディング能力を高く評価しているからだ。傘下の美容学校では学生に対し「夢をあきらめないことの大切さ」をテーマに講演も行う。明るく前向きな及川さんの話は教育面で大きな効果を発揮しているという。
及川さんにとっても所属企業の看板を背負うことがモチベーションのアップにつながっている。「会社の仲間の存在がプラスアルファの力を与えてくれています。競技での活躍を通じてタカラベルモントの理念を多くの人に発信したい。ビジネスの面でも経験をしっかりと積んで新しい仕事にどんどん挑戦していきたい」と目を輝かせながら及川さんは話した。
夢に向かって頑張る及川さんの姿は、2021年の創業100周年を機に制定した同社のパーパス「美しい人生を、かなえよう」を体現している。
未知の領域に挑む 〜毛髪の中心組織、メデュラの構造を解析〜
タカラベルモントは、毛髪の未知の領域を科学的に解明することで、美容のための製品開発に役立てている。科学的アプローチによる毛髪ケアの新技術として大きな注目を集めているのが、毛髪の中心組織、メデュラの構造を解析することで生まれた「ヘアメデュラケア」だ。
滋賀県湖南市にある同社の化粧品研究開発部第一研究所は、毛髪の構造解析のために難度が高い縦方向での観察を可能にする技術を確立したことをきっかけに、2017年、メデュラには黒と白の2種類が存在することを世界で初めて発見。髪のツヤや透明感に「白メデュラ」が大きな役割を持っていることを解明した。
研究データをベースに独自の浸透技術を開発することで実現した「ヘアメデュラケア」は黒から白へとメデュラを自在にコントロールできる技術として科学界から注目を集めている。
同研究所に所属する戸田和成さんは「研究開発に専念できる環境が整っていることに加え、上司や同僚と自由闊達に意見を交わし合える雰囲気が新技術の開発を後押ししてくれました」と振り返る。
大阪大学大学院で創薬の研究に取り組んでいた戸田さんは、製品開発を通じて、利用者の喜びを実感できるところに魅力を感じ、同社を就職先として選んだという。「基礎研究から製品開発までスピード感を持って一貫して携わることができるところにやりがいを感じています」と戸田さんは語った。
「ヘアメデュラケア」は、髪を美しくすることに加え、クセ毛の解消やパーマ、カラーのダメージ回避の可能性を秘めている。戸田さんは、現在、さらなるメデュラの研究と新しい製品開発とともに「ヘアメデュラケア」の進化に取り組んでいる。
万博は100年ビジョンを世界に示す場
大阪市の人工島、夢洲で2025年に開催される大阪・関西万博。健康と医療の最先端技術の発信をテーマに設けられる大阪パビリオンへの出展に向け、タカラベルモントは、全社横断型の万博プロジェクトチームを立ち上げ、準備を加速している。
「科学技術の進歩は寿命の延伸につながり、 美と健康へのニーズは今後ますます高まることが 予想されます。新しい技術を実装した製品、サービスを生み出していく上で万博に挑戦する意義は大きいと思っています。心身ともに豊かで 暮らしやすい社会の実現に貢献できるよう美容と医療を融合した 未来のヘルスケアを提案していきたい」と吉川朋秀専務は話す。
タカラベルモントは万博と深く関わってきた企業だ。 1970年の大阪万博では「美しく生きる喜び」をコンセプトに「タカラ・ビューティリオン」と名付けたパビリオンを出展。建築家の黒川紀章氏がデザインした独創的な外観、未来を見据えた理美容サロンなどの展示内容、ファッションデザイナーのコシノジュンコ氏が手掛けたスタッフの斬新なユニホームは大きな反響を呼んだ。
60年前から海外進出に取り組んでいたタカラベルモントにとって、1970年の万博は、「それまでの国際展開の成果を再認識するとともに事業を大きく飛躍させる土台になった」(吉川専務) という。
大阪市中央区の大阪本社1階ロビーには「タカラ・ビューティリオン」の150分の1の模型が展示されている。半世紀近くを経た現代の視点から見ても先進的な当時の取り組みは、タカラベルモントのみならず社会の大きな遺産になっている。
約20人の万博プロジェクト チームは週2回のペースでミーティングを重ね 、デジタル技術やライフサイエンスの進化を取り入れた出展内容の構想を練っている。2021年に創業100年を迎えたタカラベルモントにとって、2年後の大阪・関西万博は次の100年を見据えたビジョンを世界に示す場となるに違いない。