大規模ウイグル人監視網を可能にしている日本製部品〜メーカーは非道な人権弾圧に加担していいのか アフメット・レテプ

月刊「正論」3月号より)

二〇二二年を振り返ると国際社会ではウイグル問題をめぐるいくつもの進展があった。二二年一月、フランス議会がジェノサイド認定の決議を採択し、アイルランド議会がそれに続いた。六月には欧州議会が同様の決議を採択、ウイグルジェノサイドを認めた世界最大の立法機関となった。十二月には台湾立法院(国会)が同様の決議を採択、ウイグルジェノサイドを認めたアジアで最初の立法機関となった。また五月には強制収容所に関する大量の内部資料「新疆公安ファイル」が流出、世界に衝撃を与えた。事態を把握しつつ沈黙を続けてきた国連も「人道に対する罪を含む、国際犯罪の遂行に当たる可能性がある」と初めて公式に認めた。

そんな中、私たちは東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)でのウイグル人らチュルク系民族への非人道的犯罪の一部を構成する大規模監視に関わったとして、米国が制裁対象にした中国企業「ハイクビジョン(杭州海康威視数字技術)」の監視カメラを分解調査し、監視カメラに複数の日本企業が部品供給していることを確認した。

ハイクビジョンは監視カメラのシェアで世界一位の企業で、同じくウイグル人の大規模監視に関わったとして米国が制裁対象にした中国の監視カメラ大手企業「ダーファ・テクノロジー(浙江大華技術)」(二二年十月日本に進出)とハイクビジョンの二社で世界の監視カメラ市場シェアの最大三分の一を占めたことがあるといわれる。二社とも、一部製品に「ウイグル人の顔を識別できる機能」を搭載していたことが、セキュリティと映像監視に関する世界有数の米調査会社IPVMの調査などで明らかになっている。英BBC放送の調査報道で、ウイグルの強制収容所にハイクビジョンの監視カメラが設置されていることも確認されている。

大規模監視システム

ここ数年間、ウイグル人らに対する中国政府の弾圧が著しく深刻化している。三百万人以上のウイグル人らが、単に民族的及び宗教的アイデンティティを理由に恣意的に拘束され、強制収容施設に収容されている。拘禁された人々への肉体的及び精神的拷問、性的虐待、強制労働、強制的な不妊手術、家族の分離、強制失踪、文化的迫害などは日常的に繰り返されていると報告されている。

日本の各大学で博士号を取得後帰国し、ウイグル人社会の各分野の最先端で活躍し、日本との共同研究を長く続けてきた多くの著名なウイグル知識人も収容され、行方不明となっている。

国際人権団体、ヒューマン・ライツ・ウオッチは一九年五月に『中国が用いる抑圧のアルゴリズム 新疆警察の大規模監視アプリをリバースエンジニアリング』と題する詳細な調査報告書を発表し、これらの非人道的犯罪行為が「一体化統合作戦プラットフォーム(IJOP)」と呼ばれる大規模監視システムによって支えられている実態を明らかにした。

IJOPは、中国の大手国営軍事請負業者、中国電子科学技術集団公司(CETC)が開発した。監視カメラ映像や人工知能(AI)、個人情報や生体情報を集めたビッグデータなど最新技術を駆使し、街中に張り巡らされた監視カメラ映像からウイグル人を個人識別し、過去の行動パターンとともに蓄積されていく。それをAI(人工知能)が検証、分析して少しでもパターンから外れたケースを検知すると『怪しい人物』と見なし、警察に通報するという恐ろしいプログラムだ。

例えば、スマートフォンの使用をやめた人がいたとする。電話の追跡ができなくなったことが検知されるとそれが警察に通報される。当局が問題視する五十一のインターネットのツールやアプリ(WhatsApp等)のいずれかがスマートフォンに入っていることが検知されると、やはり警察に通報される。自動車の登録所有者がガソリン購入者と同一でないことが検知されても警察に通報され、普段と違う時間に帰宅するとそれが監視カメラに収められて通報される…といった具合だ。検問所等とも連携し人々の生活の隅々まで追跡が可能な監視網が敷かれているのだ。

一九年十一月、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が大量の内部文書を入手・公表し、中国政府がウイグル人らをIJOPで常時監視し、大量に収容所へ送り込んでいる実態を明らかにした。公開された内部文書では、IJOPの通報によってわずか一週間で約二万四千人の〝疑わしい人物〟が検出され、そのうち約一万五千人が収容所に送られていた実態が記載されていた。

多数の元被拘禁者への聞き取り等の調査を基に二一年六月に公表された国際人権NGO、アムネスティ・インターナショナルの報告書は「中国がウイグル自治区全域に世界でも最も精巧とされる監視体制を敷き実態は強制収容所である巨大な『再教育』施設群を作り上げている」「ウイグルの人たちは、収容所の中でも外でも、世界で最も厳しい国の監視下に置かれている人たちだ」と結論付けた。

実はその当時から、この監視システムに日本を含む先進国の技術が悪用されているのではないかとの疑惑が報道されていた。共同通信がハイクビジョンの製品パンフレットなどを基に調べた結果、ソニーとシャープが画像センサー(監視カメラの「目」に当たる基幹部品)を供給していることが分かったと報じていた。

問題意識欠く日本企業

一連の人権侵害は、大規模監視システムなくしては成立しない。二二年五月二十四日、中国当局が「職業技能教育訓練センター」と呼ぶ強制収容所に関する数万件の内部資料「新疆公安ファイル」が前述したように流出し、非人道的な扱いを生々しく映し出し、誰が見ても隠し通せないほど犯罪の決定的証拠が明らかになったことを、世界中のメディアが一斉に報じた。

流出したのは、中国共産党幹部らの発言を記録した機密文書、収容施設の内部を撮影した写真、二万三千人以上の収容者名簿、二千八百人以上の収容者の顔写真など数万件の内部資料で、公安当局のコンピューターに保存されていたものを、ハッキングを通じて入手し、ICIJやBBC、NHK、毎日新聞など日米欧の主要メディアが内容を検証し一斉に報じた。日本ウイグル協会は、「新疆公安ファイル」に含まれる収容者の約四分の一が監視システム「IJOP」の通報によると確認した。

「新疆公安ファイル」の流出から一カ月後の二二年六月、前出の米調査会社IPVMが調査報告書を発表した。それによると「新疆公安ファイル」の画像解析からIJOPが収容者を割り出す際、ウイグル人の判別にハイクビジョンの監視カメラを使っていたことが確認されている。

【表1】部品供給が確認された日本企業
【表1】部品供給が確認された日本企業

日本ウイグル協会では、実際にIJOPが使用したものと同種のハイクビジョンの監視カメラを分解調査し、複数の日系企業が部品供給していることを確認した。詳細は表1にまとめた。これを見るとセンサー、メモリ、レンズドライバーといった部品ばかりだ。ウイグル人を割り出す「目」となるシステムの心臓部分に日本企業のハイテク基幹部品が使われ、システムを支えていることが読み取れるだろう。

調査した結果に基づき、企業の問題意識と今後の対応を問う質問状を送付した。その結果、「マイクロン ジャパン株式会社」以外の六社から回答を得たが、ほとんどが回答になっておらず、単に会社の経営方針を述べたのみだった。企業へ送付した質問事項は次の通り。

① 貴社のハイクビジョンへの技術・部品供給がウイグル人の監視に使われていることについてどのような認識をお持ちでしょうか。

② ハイクビジョンは、ウイグル人の人権侵害を理由に米国政府から禁輸制裁を受けている(「エンティティー・リスト<EL>」に掲載されている)企業であり、米国政府は更に厳しい制裁である「特別指定国民(SDN)」リストに掲載することも検討していると報道されています。このような状況の中、貴社が技術・部品供給をすることは、ハイクビジョンに制裁逃れの手段を提供し、ウイグル人への大規模監視を終わらせるための努力に水を差すことになり、ジェノサイドや人道に対する罪に相当すると指摘されるウイグル人への深刻な人権侵害を助長することに繋がると考えますが、そのことを認識した上で技術・部品供給をしていますでしょうか。

③ ハイクビジョンへの技術・部品供給を今後も続けますか。続ける場合、大規模監視の犠牲になっているウイグルの人々に対する企業の責任についてどのように考えているか、聞かせてください。停止する場合、いつまでに停止する方針なのか、聞かせてください。

【表2】企業からの回答
【表2】企業からの回答

質問事項への各社の回答は表2の通り。ジェノサイドや人道に対する罪にあたると国際社会から問題視されている深刻な問題だけに、それを支える監視システムへの技術・部品供給が確認されている企業が重大な説明責任を負うことは明らかだが、回答を見る限り、事態の深刻さへの問題意識と社会的責任に欠けていると言わざるを得ず、今後の具体的対応も期待できないと考えている。

日本は輸出管理規制を

日本企業はこれまでもウイグル人の強制労働問題への関与が指摘されてきた。二〇年三月、オーストラリアのシンクタンク、ASPIが、世界の有名企業八十三社のサプライチェーンに組み込まれている中国の工場で、収容施設から移送された八万人以上のウイグル人が強制労働させられているとの調査報告書を発表した。その中には、日本企業十四社(日立製作所、ジャパンディスプレイ、三菱電機、ミツミ電機、任天堂、ソニー、TDK、東芝、ユニクロ、シャープ、良品計画、しまむら、京セラ、パナソニック)も含まれていた。二二年十二月、英シェフィールド・ハラム大学の研究者チームが調査報告書を発表、世界の主要な自動車メーカーがサプライチェーンを介してウイグル人の強制労働に関与していると警鐘を鳴らした。その中にはホンダ、トヨタ自動車も含まれている。報告書を受け米上院財政委員会は自動車各社にウイグル強制労働と供給網の関係確認を求める書簡を送った。

日本では東京都などが太陽光パネルを新築住宅に設置するよう義務化を進めている。しかし、日本の太陽光パネルのほとんどは中国からの輸入に依存している。専門家たちによると、中国製太陽光パネル部品の大半がウイグルで作られており、ウイグル人の強制労働問題と深く関係している。

世界を巻き込むウイグル人の強制労働問題は、今や国際社会から認識されている。国際労働機関(ILO)が二二年二月に発表した報告書で、ウイグル人の強制労働に深い懸念を示し、中国に改善要求を出している。英キール大学教授の日本人学者、小保方智也国連特別報告者(現代的形態の奴隷制担当)が二二年八月に公表した報告書では、ウイグル人の置かれる状況を「過剰な監視や移動の自由の制限など、人道に反する犯罪である奴隷状態に相当する可能性がある」と警鐘を鳴らした。

ウイグル人の強制労働問題をめぐって、欧米各国はサプライチェーンからその影響を排除するための法整備を進めている。米国では二二年六月、原則としてウイグルの産品を輸入禁止とする「ウイグル人の強制労働防止法」が施行された。欧州連合(EU)は二二年九月、ウイグル問題を念頭に強制労働で生産された製品のEU市場での販売を禁止する法案を公表した。二三年一月現在、日本で同様の法整備の動きはない。

そして強制労働問題に加えて、今度は、日本企業の技術がウイグルジェノサイドを担う大規模監視システムを支えていることが明らかになった。リストに指摘されている日本企業はハイクビジョンとの取引関係を明らかにし、事業活動による人権への負の影響に対する人権DD(人権デューデリジェンス=企業が増大する人権リスクを調査・特定し、防止、トラブルを対処する取り組み)を実施し、説明責任を果たすべきである。

また、仮に現時点でも技術・部品供給が継続している場合、それがウイグル人への人権侵害に使われていることを明確に否定できない限り、即時に取引関係を断ち切るべきである。

相次ぐ対中非難

中国政府によるウイグル人らへの非人道的犯罪行為には、国際法上の犯罪ジェノサイドや人道に対する罪にあたるという非難が国際社会から相次いでいる。ジェノサイドとは「国家あるいは民族・人種集団を計画的に破壊すること」で集団殺害や大量虐殺だけを意味しない。一九四八年に国連総会で採択された「ジェノサイド罪の防止と処罰に関する条約」(通称「ジェノサイド条約」)第二条は「国民的、民族的、人種的または宗教的な集団の全部または一部を集団それ自体として破壊する意図をもって行われる行為」と規定する。

二〇二三年一月現在、米国政府、欧州議会、英国議会、フランス議会、カナダ議会、オランダ議会、ベルギー議会、リトアニア議会、チェコ議会、アイルランド議会、台湾立法院(国会)が、ウイグルジェノサイド(或いはその深刻なリスク)を認める決議を採択している。日本の国会(衆議院と参議院)も懸念を示す決議を採択し、日本政府に国際社会と連携して深刻な人権状況を監視し、救済のための包括的施策を実施するよう求めている。先進七カ国(G7)では、日本を除く全ての国がウイグル問題で制裁に踏み切っている。欧州連合(EU)はウイグル問題で、天安門事件以降初めての対中制裁を発動した。

一方、同月現在、私たちが把握するだけで日本全国百二の地方議会(大阪府議会のほか、県議会では宮城県議会、秋田県議会、栃木県議会、埼玉県議会、山梨県議会、長野県議会、兵庫県議会、奈良県議会、熊本県議会、政令指定都市議会では仙台市議会、千葉市議会、川崎市議会、堺市議会、広島市議会、北九州市議会などを含む)がウイグル問題で意見書を採択、国に対応を求めている。

二二年八月、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が報告書を公表、中国のウイグル人に対する侵害行為を「人道に対する罪を含む、国際犯罪の遂行に当たる可能性がある」と初めて公式に認めた。OHCHRの調査を受けた人の半数が厳格な監視下で、時折しか親族との面会や電話を許可されていなかった。残りの半数は家族との連絡もできず、家族は居場所を知らないという。

報告書は、中国に恣意的に拘束された全ての人の釈放、家族が行方を捜し求める人々の居場所を明らかにし、国際機関の独立調査の受け入れ、声を上げたウイグル人らへの脅迫や報復行為の停止等十三項目を勧告した。中国政府が否定する事実を国連機関が認定した意味は大きい。

更に、国連総会や人権理事会などの場では、毎年世界の主要な民主国家がウイグル問題で中国を非難する共同声明を発表し、非人道的犯罪の即時停止や独立した調査を求めている。共同声明に署名する国は年々増加し、一九年の二十二カ国から二二年には五十カ国に増えた。二二年十一月二十四日、人権問題を扱う国連の委員会は中国にOHCHRの勧告に沿って収容施設に拘束されるウイグルの人々の解放を求め被害者に「救済と賠償」を提供するよう勧告した。

各国議会や国連機関以外にも、国際法の専門家らも相次いで声を上げている。二一年十二月九日、国際法や人権問題の専門家で構成する、英国のロンドンに設置された独立調査委員会「ウイグル特別法廷」は、十八カ月に及ぶ調査の末、中国のウイグル人に対する侵害行為はジェノサイドに相当するとの結論を下し、国連ジェノサイド条約の署名国に対して、ウイグルジェノサイドを阻止すべく法的義務を勧告した。

二一年三月、人権、戦争犯罪、国際法の専門家五十人以上が共同で執筆し、米国のシンクタンク、ニューラインズ戦略政策研究所が発表した報告書は、国際法上の「ジェノサイド」そのものだと結論付けた。また二二年五月には、関東弁護士会連合会がウイグル問題で意見書を採択、国際機関による調査の受け入れや被害者の救済措置などを中国政府に求めた。

日本企業や行政が意識すべきは、ウイグル問題をめぐり日本が、欧米からの制裁逃れの穴場として中国に利用されるリスクが高い点だ。ウイグルジェノサイドに加担しないために、そして日本企業を守るためにも、強制労働防止法の整備が求められる。

また、国連人権理事会が一一年に採択したビジネスと人権指導原則に基づき、日本企業の技術が非人道的犯罪に加担することを阻止する輸出管理規制法整備が求められる。

二三年一月六日には、企業によるサプライチェーン上の人権尊重及び国際的に認められた労働者の権利の保護等の促進を目的に、ガイダンス、報告書、ベストプラクティス、教訓、法令、政策、執行実務などについて相互に情報共有するための「サプライチェーンにおける人権及び国際労働基準の促進に関する日米タスクフォース」が設置された。企業の予見可能性を高め、企業が積極的に人権尊重に取り組める環境の整備に向けて、国際協調を一層加速させることが求められている。西村康稔経済産業相が米国のタイ通商代表と会談し合意した今回のタスクフォースが、企業のサプライチェーンから強制労働排除に向けた日本の重要な一歩になることを期待したい。

一方で強制労働問題にとどまらず、日本企業の輸出製品が人権侵害に加担することを予防する輸出管理規制も進めて頂きたい。

月刊「正論」3月号より)

アフメット・レテプ

日本ウイグル協会副会長。一九七七年、ウイグル南部の町、ケリピン県生まれ。二〇〇一年、カシュガル大学物理学部を卒業。留学で来日、都内のIT系日本企業に勤める。一〇年、日本に帰化。



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