2023年のプロ野球が開幕して2週間ほどたちました。今年は1カ月ほど前に大きなイベントがあり、いまだ歓喜に沸いた瞬間が鮮明に浮かぶ人も多いのではないでしょうか。野球の日本代表「侍ジャパン」が優勝を飾ったワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。決勝の様子は産経新聞を含め各紙が大きく紙面を割き報じていました。
ふと気になったのは、決勝で同点本塁打の村上宗隆選手と貴重な追加点となる本塁打を打った岡本和真選手の活躍を取り上げた3月23日付本紙スポーツ面(東京版)の記事。見出しの「大砲2人 アーチ競演」にある競演という言葉です。
「演」の字が使われるキョウエンには共演、競演、協演などの同音異義語があります。もともとは演劇や映画、音楽などの分野で用いられる言葉ですが、スポーツの場合でも比喩として使われることが多く、特に見出しなどでもよく目にするのは共演と競演ではないでしょうか。
産経ハンドブックでは、共演は〔同じ舞台・ドラマなどに出演する〕との意味合いで「2大スターの初共演」との例が載っています。一方の競演は〔同じ役柄・演目などを競い合う〕としており、例として「ビッグバンドの競演」とあります。共演は同時にという点に重きを置き、競演は競うとの意味合いが強い語なのでしょう。スポーツ関連では「スター選手のそろい踏み」ということなら共演を用いて、競演は試合などで選手それぞれが持ち味を存分に発揮した際に用いると考えられます。競うという字が使われていることから競演はスポーツ分野において親和性が高い言葉なのかもしれません。
WBC決勝での村上、岡本両選手の活躍を報じた記事ではネット上も含め、共演・競演どちらも使われているのを目にしました。同じ舞台(国際的な大会の決勝)で同じ役割を演じた(本塁打を打った)ということだと、どちらが的確な表現なのか悩ましく感じてしまうこともありそうです。共演としているものは記事において「そろって活躍」という意味合いを重視して用いていると解釈できます。一方、競演の方は同じ役割なのはいいとしても、同じチーム(侍ジャパン)なのに競うのか?と思うかもしれませんが、2人の関係性を踏まえたものだと推察しています。
岡本選手のことを村上選手が一方的に(?)「師匠」と呼び、岡本選手の反応はというと「ナメている」と苦笑―といった具合に仲の良さがうかがえるエピソードも多く見受けられます。個人成績では昨季に村上選手が三冠王に輝き大きな話題となりましたが、その前の年は岡本選手が2年連続で打点・本塁打の2冠を獲得しています。2021年は本塁打数で並びタイトルを分け合うといったこともあり、強力なライバル関係といえるでしょう。
前述の「大砲2人 アーチ競演」の記事においても
ともにチーム内での打順は「4番」で、本職は三塁。同じセ・リーグで切磋琢磨(せっさたくま)する間柄だ。「お互い本塁打が長所。そこを出せた部分は良かった」と振り返った岡本和は「2人で同じチームで打てることは、もしかしたら二度とないかもしれない」と少し寂しそう。
とあり、刺激を受け高め合える存在であることが感じられます。
大きな歓喜と感動をもたらした2人もそれぞれのチームに戻り、レギュラーシーズンでは個人成績でも熾烈(しれつ)な争いが繰り広げられそうです。さらには3年後に予定されている次回大会の大舞台においても今回同様、侍ジャパンでの「共演・競演」を楽しみにしたいと思います。(で)