EVの販売が好調な米国で「充電スタンド不足」が課題になりつつある

気候変動対策としても期待される電気自動車(EV)。米国では順調に販売台数を増やしているが、さらなる普及の足かせになりそうなのが充電インフラの整備だ。

世界最大級の家電見本市「CES」が2023年1月はじめにラスベガスで開催されたが、それはまるでモーターショーというか電気自動車(EV)ショーのようだった。会場は自動車メーカーや自動車部品メーカーでごった返し、充電式の斬新な試作モデルや美しく洗練された電動コンセプトカー、それらの次世代EVを制御するソフトウェアがずらりと並んでいた。それにもかかわらず、いま最も肝心なEV関連のプロジェクトが、脚光を浴びているとは言い難い状態になっっている。

EVは業界アナリストの見込みよりずっと速いペースで受け入れられており、米国での販売は極めて好調だ。とはいえ、EVを購入すれば、ドライバーはどこかで充電する必要が出てくる。つまり、最新の電動スポーツカーのような華やかさには欠ける「インフラ整備」という問題が生じてしまうのだ。

米国では現在、EV所有者のおよそ90%が自宅か職場で充電できている。しかし、気候変動対策の目標を達成するには、もっと多くの人にEVを購入してもらうことが(十分ではないものの)極めて重要となってくる。

米国の全住民の3分の1以上が集合住宅で暮らしていることを考えると、個人が自宅に充電設備を設置することは難しいだろう。米エネルギー省によると、国内に設置されているEV用公共充電スタンドは50,000カ所足らずだ。

これに対してある分析結果によると、州政府や連邦政府が掲げるガソリン車の新車販売禁止を35年までに実現するには、49万5,000カ所の充電スタンドが必要になるという。設置コストは、充電器1台あたり10万ドルを超えることもある。

充電スタンド不足解消のために米国政府は多額の資金を投じているが、その注目度は低い。21年には超党派のインフラ投資法案が、22年夏には気候変動法案とも呼べるインフレ抑制法案が可決され、合わせて75億ドルもの資金が州間高速道路沿いにEV用充電スタンドを設置する目的で投じられる予定だ。多額の税額控除も盛り込まれ、企業は独自の充電設備をより安く購入・設置できるようになる。

これだけの措置を講じれば、今後5年間に公共充電スタンドを50万カ所に設置するには十分だとされる。連邦政府は23年中に、高速道路沿いにEVの充電スタンドを設置するための助成金15億ドルを州政府に支給する計画だ。農村部や低所得者層が住む地域に設置を希望する場合には、さらに25億ドルが上乗せされる。

これだけの資金が投じられるにもかかわらず、充電スタンドという新たな大型インフラをいかにして素早く構築できるかは、いまだ不透明だ。クルマ社会の米国であまり苦労せずにガソリン車からEVへ移行するには、公共充電スタンドの普及がどうしても必要になる。この切実なニーズと、連邦政府による多額の資金投入がうまくかみ合えば、EV充電整備計画は気候変動対策の過程でひとつの時代をつくりあげられるかもしれない。

待ったなしの状況と政府の計画により、黎明期にあるEV充電スタンド業界が本格的に始動し、標準化が進むことを関係者は期待している。政府の介入がありがたいのは、現状の充電スタンドには規格の面でのばらつきがあるからだ。すべてのEVに対応していないところも少なからずあり、充電速度もまちまちで、信頼性の問題もある。

EV充電ネットワークの構築・保守を手がけるABBの渉外担当バイスプレジデントのアサフ・ナグラーは、一体化した支援を政府に望んでいる。「そうすれば、これまでEVの充電と無縁だった人たちとも一緒になって取り組んでいけるからです」と、ナグラーは語る。政府機関、電力会社、自動車メーカーなどが一致団結し、誰もがいつでもどこでもEVを充電できるよう、公共充電スタンド網を構築することが求められている。

会員限定記事会員サービス詳細