日銀新体制、国内景気の好材料が後押し エコノミスト指摘

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎主席研究員(松崎翼撮影)
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎主席研究員(松崎翼撮影)

日本銀行の第32代総裁に9日、元日銀審議委員で経済学者の植田和男氏(71)が就任する。2%の安定的な物価上昇の実現に加え、異次元の金融緩和を終わらせて金融政策を正常化させる「出口」戦略が新体制の課題だ。金融政策のかじ取りに影響を及ぼす賃金引き上げと日本経済の現状と課題を、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎主席研究員に聞いた。

今年の賃上げムードは予想以上で、安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」では成し遂げられなかった成長と分配の好循環の達成に向け、最初の一歩を踏み出したといえる。本来、賃上げは民間の需給のバランスに委ねるもので、政府の干渉がほとんど必要ないことを示したともいえる。

国内景気にとって明るい材料は多い。今後は物価も落ち着く見通しで、新型コロナウイルス禍で落ち込んだサービス関連の需要もさらに盛り上がっていく。ボーナスの増額も見込まれ、今秋以降には実質賃金のプラス転化も期待できる。

海外との賃金格差が広がる中、企業は優秀な人材を確保するため賃金水準を上げざるを得なくなった。企業にとって一度上げれば下げにくいコストだった人件費が、将来につながる重要な投資という位置づけになった。(2008年の)リーマン・ショックなどの苦い教訓から、余力があっても賃上げに踏み切れなかった企業の姿勢が変化した。

大企業の意識改革も重要だ。これまで相当の中小企業が淘汰(とうた)され、高い技術力を持つ企業が生き残った。大企業はコロナ禍を経験し、低コストの海外製品に頼るだけでは、何か起きたときに身近なところで調達できないリスクを学んだはずで、なくてはならない取引先として日本の中小企業を認識しないといけない。

問題は外需の動向だ。米国の金融引き締めによる景気悪化のリスクは常について回り、輸出の状況などに注視する必要がある。

「植田日銀」9日に発足 物価安定上昇と出口戦略が課題


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