アイラブNY

地方検事の問い

公正な選挙は民主主義の基盤であることは論をまたない。その選挙で、候補者が自身の醜聞や不正を違法な手段で隠蔽することを許せば、民主主義を危うくする-。過去の不倫疑惑の口止め料を巡って起訴されたトランプ前米大統領に、検察側が突きつけた起訴状には、そんな問いかけが込められていたと感じる。

捜査責任者のブラッグ検事は、2016年大統領選に出馬したトランプ氏が、選挙で不利となる醜聞の発覚を恐れて側近らと共謀。多額の口止め料を支払った「非合法な計画」を事件の核心に据えている。

トランプ氏が問われた34の罪状はすべて、この計画の中で起きた違法行為に関するもので、ブラッグ氏は起訴を通じ、「有権者が投票に際して知るべき重要な情報を隠すのは不当だ」と問題提起をしたのだと、私は受け止めている。

ブラッグ氏は、ニューヨーク・ハーレム生まれの黒人で49歳。ハーバード法科大学院の学生時代、公民権や人権に関する法学雑誌の編集に携わった。米国の公民権運動は黒人指導者が率いた長い歴史がある。

「完全な無実」を主張するトランプ氏の起訴に際して、ブラッグ氏の事務所には殺害予告と白い粉が届いた。動機は不明だが、正当な法手続きに従った起訴に対する一部の反応は異様だといえる。(平田雄介)

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