ベンチャー探訪

アプリ「エール ゴエン」、AIで従業員の恋愛支援 導入企業は980社

Aillの豊嶋千奈代表取締役
Aillの豊嶋千奈代表取締役

福利厚生サービスとして、国内企業に導入が広がっているアプリがある。人工知能(AI)が恋愛をサポートし、進展が期待できそうな相手をAIが紹介。紹介後は2人のチャットによる会話から自分に対する相手の好感度をAIが可視化し、デートに誘うタイミングなどもアドバイスする。トライアルから約2年半で、導入企業は約980社に上っている。

このアプリはAill(エール、東京都港区)が提供する「Aill goen(エール ゴエン)」。

例えば、紹介後の初期段階には相手を深く知るために、AIが「仕事の内容を詳しく聞くと、どんな人か分かるかも!」などとアドバイス。その後も2人のチャットから「デートに行けそうなタイミングにアドバイスするね!」とか、「そろそろ会ってみない? フォローは任せて!」など、AIが「共通の友達の役割をする」(豊嶋千奈代表取締役)ことで2人をサポートする。AIのアシストによって、男性が告白して付き合いに至る確率は98・6%という。

出会いを仲介するマッチングアプリによる婚活が広がっているが、エール ゴエンは誰でも使えるわけではない。エール ゴエンを導入した企業の独身社員だけが利用できる。紹介される相手も他の導入企業の社員だけだ。しかも導入できるのは上場企業やそのグループ会社、「子育てサポート企業」として厚生労働相の認定(くるみん認定)を受けるなど福利厚生制度が整っていると第三者機関のお墨付きを得ている企業だけで、利用者の安心感につながっている。

導入企業はNTTグループやJR東日本グループなど有名企業も多い。ウェブサイト「日本の人事部」に登録する人事パーソンが選ぶ「HRアワード」で、令和3年度の組織変革・開発部門の最優秀賞にも選ばれた。

もともと製薬会社に勤務していた豊嶋氏は営業の成績優秀者として表彰されるなど実績を残し、女性幹部候補生にも選出されていた。だが、仕事だけの人生になることに疑問を感じて退職。「仕事だけでなくライフも充実させる」。そんな思いを実現するために起業したのがエールだった。

AIには、「どのタイミングで何をすれば、相手の心が動くのか」という豊嶋氏の営業ノウハウを恋愛に転用。東京大学の松原仁教授、北海道大学大学院の川村秀憲教授、東京大学大学院の鳥海不二夫教授という日本のAI先駆者とされる3氏とつくり上げた。

昨年の日本の出生数は80万人を割り込んだ。急速に少子化が進む中で、豊嶋氏はエール ゴエンを通じ「家庭も仕事も支え合える、そんなカップルをつくることで貢献したい」と話している。(高橋俊一)

【Aill】

平成28年10月設立。製薬会社に勤めていた豊嶋千奈氏が起業し、令和2年10月に「Aill goen」のトライアルサービスを開始、3年11月にアプリを正式にリリースし、導入企業を増やしている。業績は非公表。

独自のアイデアや技術で新しいサービス、ビジネスに挑戦するベンチャー企業。大企業も目を引く勢いのあるベンチャーを随時取り上げる。

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