正論5月号

醜聞に興じる野党と付き合う与党 産経新聞政治部編集委員兼論説委員 阿比留瑠比

参院予算委で立憲民主党の小西洋之氏の質問に答弁する高市早苗経済安保相=3月8日午後、参院第1委員会室(矢島康弘撮影)
参院予算委で立憲民主党の小西洋之氏の質問に答弁する高市早苗経済安保相=3月8日午後、参院第1委員会室(矢島康弘撮影)

※この記事は、月刊「正論5月号」から転載しました。ご購入はこちらをクリック

「三月から、総務省文書騒動で役所の公務は殆どできなくなりました。国会答弁最優先ですから、海外でセキュリティクリアランスが無いばかりに不利益を受けている企業の非公開ヒアリングには終盤しか参加できず、多くの企業が参加される経済安全保障の講演会もドタキャン。『国会軽視』はしていません」

高市早苗経済安全保障担当相は三月十八日、自身のツイッターでこう嘆いた。国益を損ねるひどい話である。

国会では、立憲民主党と共産党を中心に放送法の政治的公平に関する平成二十七年の総務省の行政文書をめぐって連日、高市氏への執拗な攻撃が続く。高市氏が総務相だった当時、放送法の解釈の変更などしていないと説明しても立民議員らは聞く耳を持たず、感情的に責め立てることをやめない。

行政文書は立民の小西洋之参院議員が入手したもので、高市氏はそのうち自身の言動が記された四枚の行政文書は不正確だと明確に否定している。そして実際、総務省が公表した「『政治的公平』に関する行政文書の正確性に係る精査について」と題する三月十七日付の追加報告も、高市氏の主張を追認している。

高市氏は特に、二十七年二月十三日に総務官僚が高市氏に対して行ったという放送法の「レク(説明)」に関しては、そうしたレク自体がなかったと主張していた。この点に関する総務省の追加報告にはこうある。

「なお、作成者および同席者のいずれも、この時期に、放送部局から高市氏に対して、放送法の解釈を変更するという説明を行ったと認識を示す者はいなかった」

行政文書によると、このレクには高市氏を含め六人が出席していたとされたが、もともと大臣室側の出席者三人はいずれもレクの存在を否定していた。それを、追加報告では残りの三人も認めたということである。

追加報告によると、この文書の作成者は聞き取り調査に次のように答えている。

「約八年前でもあり記憶が定かではないが、日頃誠実な仕事を心がけているので、上司の関与を経てこのような文書が残っているのであれば、同時期に放送法に関する大臣レクは行われたのではないかと認識している」

レク出席者は誰も記憶していないが、文書があるならあったのではないかという曖昧模糊とした言葉だが、総務省は国会でも繰り返しこれを読み上げている。なぜそんな回答になったか。筆者はある政府高官からこんな衝撃的なことを聞いた。

「『文書が残っているなら』の前に『上司の関与を経て』とつけているだろう。あれは記録者が最初に作ったメモを、上司が原型をとどめないほど書き換えたことをにじませたものだ。そんなことが何度かあったらしい」

上司が内容を書き換えてしまっているのなら、作成者が言葉を濁したのも頷ける。もし、総務官僚がメモや覚書の類いであろうと、行政文書を何らかの意図を持って改竄して記録に残したのだとすると、これは捏造と言っていい。

問題は高市氏の進退を狙う立民の思惑を超え、総務省のスキャンダルに発展する。刑事事件になる可能性もある。三月十四日の衆院総務委員会では、こんな奇妙な質疑もあった。

立民の大築紅葉氏「総務省が文書を捏造するはずがない。捏造した可能性はないと考えているか」

松本剛明総務相「まだ確認中で、捏造であるかどうか私が今、申し上げることはできない」

総務相が総務省の行政文書について、「捏造ではない」と答弁できずにいるのである。それだけでも十分に怪しい。

また、二十七年三月九日の「高市大臣と(安倍晋三)総理の電話会談の結果」という行政文書に関しても、高市氏は安倍氏と電話で放送法について会話したことはないと述べていた。これに関しても追加報告はこう記している。

「高市大臣から安倍総理又は今井(尚哉首相)秘書官への電話のいずれについても、その有無について確認されなかった」

まさしく高市氏への立民の批判は冤罪であり、言いがかりに過ぎなかったのは明らかである。にもかかわらず、立民は論点をずらし、高市氏の言葉尻をとらえて非難を繰り返す。事の真偽などどうでもよく、ただ相手を攻撃し、排除できればいいといういじめの構図そのものだといえる。

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「正論」5月号 主な内容

【特集 国会という空騒ぎ】

連載「永田町事情録」 政教一致に翻弄される自民党

与党・野党 そして国民に責任あり 元衆議院議長 伊吹文明

若者に範示す最高機関たれ 慶應義塾大学教授 松井孝治

先例という因習が国益を損ねる 国民民主党代表 玉木雄一郎

「事なかれ」が支配するガラパゴス国会 東京外国語大学教授 篠田英朗

レベルの低さが日本経済の危機招く 上武大学教授 田中秀臣

新聞がダメだから論戦が劣化する 連載「暴走する新聞報道」第6回 政策シンクタンク代表 原英史

醜聞に興じる野党と付き合う与党 産経新聞政治部編集委員兼論説委員 阿比留瑠比

【特集 有事を想定せよ】

国内の監視カメラが中国製でいいのか 衆議院議員 和田義明

シンポジウム「八重山群島の住民保護計画」

第一部 基調講演 備えてこそ「戦わずして勝つ」 元陸上幕僚長 岩田清文

第二部 パネルディスカッション 迅速な島外避難へインフラ拡充急げ <パネリスト>元陸上幕僚長 岩田清文×石垣市長 中山義隆×与那国町長 糸数健一×竹富町長 前泊正人、コーディネーター 正論調査室長 有元隆志

玉城デニー知事こそ安全保障問題 八重山日報編集主幹 仲新城誠

気球・ドローン撃墜 早急に対応検討を 元航空自衛官・作家 数多久遠

習近平国家主席 四期目狙いの人事 チャイナ監視台 産経新聞台北支局長 矢板明夫

露宇戦争で変化した北のミサイル戦略 軍事・情報戦略研究所長 西村金一

【特集 激動朝鮮半島】

日韓の最悪回避も虚偽の払拭ならず モラロジー道徳教育財団道徳科学研究所教授 西岡力

飢餓と内部対立で大揺れの北朝鮮 特定失踪者問題調査会代表 荒木和博

人道支援の大前提は全拉致被害者帰国 北朝鮮による拉致被害者家族連絡会(家族会)代表 横田拓也×家族会事務局長 飯塚耕一郎

【特集 さよなら松本零士さん】

「宇宙戦艦ヤマト」の義理堅かった原作者 作家・島根県立大学名誉教授 豊田有恒

男らしさ女らしさ重んじたサムライ 演出家・映画監督 野伏翔

▼南京事件 周到な反転攻勢を

近現代史研究家 阿羅健一×モラロジー道徳教育財団道徳科学研究所教授 西岡 力×評論家 江崎道朗

▼反アベノミクスこそ日本経済のリスク 元日銀副総裁 岩田規久男

▼新築住宅ソーラー発電 設置義務化条例への疑義 貧富の格差拡大招く キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山大志

軍事企業を利する愚策 ウイグル文学研究者 ムカイダイス

反社会的勢力の排除を 全国再エネ問題連絡会共同代表 山口雅之

▼自国を守る気概を日本人から奪った憲法 元空将・麗澤大学特別教授 織田邦男×ジャーナリスト 葛城奈海×コーディネーター 月刊「正論」編集長 田北真樹子

●安全保障に貢献 安倍元首相に特別賞 第38回「正論大賞」贈呈式

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産経新聞の軌跡 昭和30年代編 第2回 時事新報と合同 独立自尊の精神 いまは 評論家 河村直哉

「訥行塾」⑲若手官僚らが国家のあり方を考える 何を守るための安保戦略か 産経新聞編集委員 宮本雅史

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