国境の島

旅立ちの春 想いをつなぐ虹色テープ 島根県隠岐「島後」<動画>

島後の西郷港で年度末に行われる盛大な見送り。岸と船とを最後までつなぐ無数の紙テープに島民の思いがこもる =島根県隠岐の島町(川口良介撮影)
島後の西郷港で年度末に行われる盛大な見送り。岸と船とを最後までつなぐ無数の紙テープに島民の思いがこもる =島根県隠岐の島町(川口良介撮影)

港にカラフルな紙テープが揺らめく。

「ありがとう」「頑張って」「また来てね」

岸から船へ大きな声が飛ぶ。ブラスバンドが演奏する中、大勢の人たちが手を振ったり、メッセージを記したボードを掲げたりしている。居合わせた誰もの胸を打つ旅立ちの風景だ。

島根半島の北約40~80キロの日本海に浮かぶ隠岐諸島の中で最大の島後(島根県隠岐の島町)。島の玄関口、西郷港は3月末、にぎやかな季節を迎える。進学や就職、異動で島を離れる若者や教職員を見送る人たちで埋め尽くされるのだ。

「先生、ありがとう」。船に乗った恩師に向かって叫ぶ小学生ら =島根県隠岐の島町(鴨川一也撮影)
「先生、ありがとう」。船に乗った恩師に向かって叫ぶ小学生ら =島根県隠岐の島町(鴨川一也撮影)

昔と比べ交通の便がよくなったとはいえ「不便な田舎」と島民は口をそろえる。そんな島で働き、尽くしてくれた人との別れ。島を離れれば会うのは簡単では無い。感謝や惜別、島民のさまざまな「想(おも)い」が盛大な見送りにこめられている。

船上から手を振る音楽教諭の木野本まゆみさん(右)。新年度から本土の高校に転勤になった =島根県隠岐の島町(川口良介撮影)
船上から手を振る音楽教諭の木野本まゆみさん(右)。新年度から本土の高校に転勤になった =島根県隠岐の島町(川口良介撮影)

県立隠岐高の音楽教諭、木野本まゆみさん(47)は4月から島外への転勤が決まった。島での4年間の暮らしを「親切な人が多く、最後まで助けてもらった」と振り返る。顧問だった吹奏楽部の生徒らと直前まで岸で演奏を楽しんだ。

大勢の子供たちが港の突堤まで駆けて行き船を見送った。長い間、手を振り続けていた =島根県隠岐の島町(鴨川一也撮影)
大勢の子供たちが港の突堤まで駆けて行き船を見送った。長い間、手を振り続けていた =島根県隠岐の島町(鴨川一也撮影)

「生徒たちにはこれから苦しいこともあると思うけど笑顔で乗り越えていってほしい」

教え子の野津乃愛(のあ)さん(16)は「最後まで一緒に演奏できてよかった。寂しいけど、明日からも隣にいそうで不思議な感じ」と恩師を見送った。

汽笛が鳴り、フェリーが岸を離れる。テープはぴんと張ったと思うと、瞬く間に切れてしまった。だが、島での濃密な思い出が、これからも人と人とをつなぎ留めていくに違いない。 (写真報道局 鴨川一也、川口良介)

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