港にカラフルな紙テープが揺らめく。
「ありがとう」「頑張って」「また来てね」
岸から船へ大きな声が飛ぶ。ブラスバンドが演奏する中、大勢の人たちが手を振ったり、メッセージを記したボードを掲げたりしている。居合わせた誰もの胸を打つ旅立ちの風景だ。
島根半島の北約40~80キロの日本海に浮かぶ隠岐諸島の中で最大の島後(島根県隠岐の島町)。島の玄関口、西郷港は3月末、にぎやかな季節を迎える。進学や就職、異動で島を離れる若者や教職員を見送る人たちで埋め尽くされるのだ。
昔と比べ交通の便がよくなったとはいえ「不便な田舎」と島民は口をそろえる。そんな島で働き、尽くしてくれた人との別れ。島を離れれば会うのは簡単では無い。感謝や惜別、島民のさまざまな「想(おも)い」が盛大な見送りにこめられている。
県立隠岐高の音楽教諭、木野本まゆみさん(47)は4月から島外への転勤が決まった。島での4年間の暮らしを「親切な人が多く、最後まで助けてもらった」と振り返る。顧問だった吹奏楽部の生徒らと直前まで岸で演奏を楽しんだ。
「生徒たちにはこれから苦しいこともあると思うけど笑顔で乗り越えていってほしい」
教え子の野津乃愛(のあ)さん(16)は「最後まで一緒に演奏できてよかった。寂しいけど、明日からも隣にいそうで不思議な感じ」と恩師を見送った。
汽笛が鳴り、フェリーが岸を離れる。テープはぴんと張ったと思うと、瞬く間に切れてしまった。だが、島での濃密な思い出が、これからも人と人とをつなぎ留めていくに違いない。 (写真報道局 鴨川一也、川口良介)
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フェリーで島後を離れる小学校の先生を見送る児童や保護者たち =島根県隠岐の島町(鴨川一也撮影)