ツイッターへ投稿された2枚の日本地図。1枚はコンビニの分布を、もう1枚は郵便局の分布を光で表している。コンビニの光が都市部へ集中しているのに対し、郵便局の光は、日本列島をくっきりと浮かび上がらせた。2万3655の郵便局が、全国津々浦々にあるためだ。この「光の日本地図」を維持するための試みが、日本郵政で始まっている。全国の地域起業家との協業だ。
「ローカル共創」
宮城県石巻市、太平洋に注ぐ北上川に近い畑で、藤本洋平さん(44)はくわを手にしていた。
1年前までは、東京・大手町にある35階建ての日本郵政本社ビルで、ITマンとして働いていた。妻と3人の子供を残しての単身赴任。キーボードをたたいていた手に生まれて初めてくわを持ち、サツマイモやホップ畑を耕す。手で雑草を抜き取る。
「冬はめちゃめちゃ寒い。夏は汗が吹き出る。でも、自分が元気になっていく実感がある」
藤本さんは昨年4月から、「農福連携」を実践する一般社団法人「イシノマキ・ファーム」へ出向という形で弟子入りした。日本郵政が始めたローカルベンチャー(地域起業家)との協業プロジェクト「ローカル共創イニシアティブ」の1期生として、全国の5地域7組織へ2年間の予定で派遣されたグループ社員8人のうちの1人だ。
社内公募で集まった彼らの使命は「社会課題解決型の新規ビジネス創出」。それぞれ「解決すべき社会課題」と「仮説の事業テーマ」を胸に、地域へ飛び込んでいった。
郵便や銀行、生命保険事業を運営する日本郵政が、なぜ地域で協業なのか。仕掛け人は2児の母だった。
厳しさを強みに
「郵便局は地域にとってラストリゾート、最後のよりどころだと思う。それを何とか維持していきたい」
大手町の日本郵政本社で、事業共創部の小林さやか担当部長(41)は話し始めた。
全国で営業中の郵便局は2月末時点で2万3655局。この10年で地方の簡易郵便局を中心に575減った。それでも、光の日本地図が示す通り、郵便局は過疎の山里にもある。海辺の集落にもある。半島にも離島にもある。人口が減ってスーパーが撤退しても、農協の支所さえなくなっても、郵便局は残ってオレンジや赤の看板を掲げている。
「約2万4千局は、市場が成り立つ場所へ配置されているというより、生活者が困らない場所に置かれている。過疎地域の郵便局にも局員を配置して平日は毎日、窓口を開けている。民間企業として郵便局ネットワークの維持は簡単ではありません。ならば、その厳しい状況を私たちにしかできない強みに変えていけないか」
地域に最後まで残る郵便局から、小さくてもビジネスを生みだし、ネットワークを通じて広げていく。そのためには地域で活躍するベンチャー企業に学び、起業家精神を身につけた人材を育てる必要がある。
こう、小林さんは考えたという。