新聞の1面トップは、各紙で一致することもあれば異なる場合もある。同じ新聞でも配布地域で異なることは多い。3月27日の朝刊(東京本社版)では産経が「ホンジュラス、台湾と断交」を、読売と毎日はロシアのベラルーシへの戦術核配備方針を1面トップにした。朝日はどちらのニュースも1面にはない。産経も大阪本社版は、前日告示された大阪市長選など統一地方選を1面トップにしていた。新聞紙面では全体の中でのニュースの位置づけがよくわかり、これはインターネットで見るデジタル記事にはない特徴である。
ウクライナ情勢は各紙共通して扱いが大きいが、台湾と外交関係をもつ国の減少は、NHK総合テレビ午後7時の全国ニュース(同26日)でも報じられ、重視されている。
林芳正外相の、日本の外相として初めてのソロモン諸島、クック諸島の訪問は、各紙の扱いは必ずしも大きくなかったが、重要な動きである。林外相はクック諸島のブラウン首相に、広島で開催される先進7カ国首脳会議(G7サミット)の拡大会合に招待する意向を伝え、「自由で開かれたインド太平洋」の実現のための連携を確認した。ソロモン諸島と中国が昨年4月、安全保障協定を締結した背景もふまえれば、岸田文雄首相のウクライナ電撃訪問と相前後した外交努力も注視に値する。
デジタル記事では、朝日が林外相とブラウン首相が手をとりあう写真を掲載(同21日)し、NHKニュースウェブ(同21日)は、笑顔の会談写真で親交を印象づけていた。太平洋の島嶼(とうしょ)国は、米中露のような大国に比べて報道の扱いは地味になりがちだが、アイキャッチとしての機能もある写真は事態の重要性を読者に伝える利点がある。
報道機関が認識するニュースの重要度は多様なので、読者はそれぞれの報道を読み比べ、できるだけ正確な世界情勢の理解につとめるのが理想ではある。だが、さまざまなメディア接触を常に実践する時間的余裕を、多忙な現代の読者に求めることは難しい。そこで、紙媒体とデジタル記事のより有機的連携の可能性を模索すべきである。
デジタル記事は、初期には新聞のライバルともみなされたが、一連の国際情勢報道にみるように、紙におさまりきらない内容を伝える相補関係にあり、関連性はもっと強調されてよい。新聞社は双方の利点を認識しつつ、それぞれの特性を生かしながら、読者に国際情勢への多角的理解を促す努力をしてほしい。
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【プロフィル】佐伯順子
さえき・じゅんこ 昭和36年、東京都生まれ。東京大大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。専門は比較文化。著書に「『色』と『愛』の比較文化史」など。