中国でアステラス製薬の現地法人幹部の日本人男性が拘束された事件を受け、中国に進出している日本企業は現地での社員の行動に神経をとがらせている。現状では中国での企業活動に目立った影響は出ていないが、社員の振る舞いや法令順守の徹底に注意を呼びかける動きが出ている。中国政府によるスパイ容疑などでの日本人拘束は繰り返されており、企業は慎重な対応を求められそうだ。
「中国政府関係者との不要な接触は避けるよう、社員に注意喚起している」。国際物流を手がける近鉄エクスプレス(東京)の担当者はこう語る。中国事業におけるトラブルに巻き込まれるリスクを軽減するため、こうした呼びかけを行う必要があるという。
日本企業は中国への警戒を強めるが、アステラスなど製薬企業にとって中国は巨大市場。新薬の承認申請のため現地当局との接触が多く、臨床試験(治験)などで得られる重要情報を取り扱う。塩野義製薬は上海の合弁企業など中国に3カ所の拠点を設け、医薬品の製造・販売などを展開。新型コロナウイルスの飲み薬「ゾコーバ」の中国での承認申請を目指している。
製薬業界関係者は「現地で集めたデータを国外に持ち出すことについて、当局はかなり神経をとがらせている」と指摘。別の製薬会社の関係者は「中国での事業展開については、より慎重に考慮していく必要があると考えている」と語る。
また田辺三菱製薬は北京で医薬品開発を行うなど中国に2拠点を設けている。現地当局との関わり方について、「現地の法令、規制などを十分に理解し、順守した上で業務にあたるよう周知徹底している」と説明。今回の事件を受けて、「駐在員の安全を第一に考え、中国における事業活動では現地の法令順守を念頭に行動するよう、改めて周知した」としている。
一方、機械・電機メーカーでは、事件を受けた積極的な対応を取っているケースは聞かれなかった。中国に生産拠点を持つ機械メーカーは、過去に他国で日本人への強盗被害などが多発していた際に、屋外では首から社員証を下げないよう注意喚起したことはあるが、担当者は「スパイ容疑対策というのは聞いたことがない」と話した。
ある電子部品メーカーの担当者は「今回は拘束されているのが製薬会社の社員なので、われわれ製造業にはピンとこないのではないか」と分析する。
中国の習近平政権は2014年に反スパイ法を施行するなど、中国で活動する外国人の取り締まりを強化している。スパイ容疑などによる日本人拘束は15年以降、今回の事件を含めて少なくとも17人にのぼっている。