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恥を跳ね返す厚顔の指導者 論説副委員長・長戸雅子

3月18日、クリミア半島セバストポリ市で、子どもの教育関連施設を視察するロシアのプーチン大統領(中央)(ロシア大統領府提供、AP=共同)
3月18日、クリミア半島セバストポリ市で、子どもの教育関連施設を視察するロシアのプーチン大統領(中央)(ロシア大統領府提供、AP=共同)

非道な独裁者に痛烈な一撃が放たれた。国際刑事裁判所(ICC)がウクライナ侵略に伴う戦争犯罪の容疑で、ロシアのプーチン大統領に逮捕状を発付した。プーチン氏には、容疑者という新たな呼称が加わった。

もっともプーチン氏がロシアにとどまる限り、身柄拘束など訴追手続きにかけることは難しい。どこが痛烈なのか、と思われるかもしれない。

国連には、「ネーミングアンドシェーミング」という、内輪の言葉が存在する。名を挙げて辱(はずかし)める、との意味で、国名などを名指しされて、国際社会から非難されるのは恥ずべきこと、という共通認識である。

底流には、主権国家は互いに対等な関係であり、国名を名指しすることには、抑制的であるべきだ、との考えがある。

例えば、安全保障理事会でイランの核問題を話し合うとき、議題を「不拡散問題」とあいまいにし、イランへ一定の配慮を示したこともあった。一方、2006年に北朝鮮が初の核実験を行ったときの安保理の議題は「不拡散/朝鮮民主主義人民共和国」と国名が入った。配慮など必要ないと判断されたわけだ。

現在、このネーミングアンドシェーミングのただなかにいるのがロシアである。

国連総会での複数回の非難決議に加え、ICCの逮捕状発付により、国どころか国家元首が、戦争犯罪容疑者として名指しされたのだから。

日本の国連大使経験者は「自分がロシアの大使だったら恥ずかしくて国連内を歩けない。各国の冷たい視線にさらされながら、会議に出ることを想像するとぞっとする」と話す。

しかし、国連の元高官は「恥ずかしいと感じるのは民主国家の証拠です。強権国家は、執政者も外交官も厚顔でないと務まらない。その厚さは何メートルもあるのではないですか」と皮肉る。

強権国家にとって国連の会議は自国のメッセージを発信する場でありつつ、実のところ、自国の独裁者への忠誠を示す場である。

プーチン氏が容疑者となってから最初に会談した外国首脳は中国の習近平国家主席だった。南シナ海での中国の主権を否定した2016年の仲裁裁判所の裁定を「紙くず」と言ってのけた国だけのことはある。痛烈な一撃も厚顔は跳(は)ね返す。いずれも日本の隣国である。

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