主張

少子化対策 財源含めて実効性担保を 国民の危機感共有が大切だ

岸田文雄首相が唱える「次元の異なる少子化対策」のたたき台となる試案を政府が公表した。子育てに関する経済支援や高等教育費の負担軽減、子育て世帯への住宅支援などを盛り込んだ。「若い世代の所得を増やす」ことを基本理念に令和6~8年度の3年間を集中取り組み期間に位置付けた。

若年層の貧困が社会問題化する現実を踏まえて、現金給付を強化するということだろう。経済的理由で子供を産み、育てることを諦めなくてはならない社会を一刻も早く変えることが大切である。

そのために、施策の優先順位を見極め、スピード感をもって確実に実行に移す必要がある。ばらまきにならないよう政策効果を不断に検証することも求めたい。

男性の育休取得進めよ

平成元年、女性1人が生涯に産む子供の推定人数「合計特殊出生率」が戦後最低の1・57を記録したころから、少子化問題の深刻さは自明だったはずである。

ところが、それから30年以上が経過した今も一向に少子化に歯止めがかからないのはどうしたことか。政府はまず自らの不作為を厳しく自覚すべきである。

2030年代以降、若者の人口は急激に減少するとされる。速やかに対策を講じなければ、社会から活力が奪われ、国力が低下しかねない。この危機感を国民全体で共有できるかが問われよう。

具体策のうち、児童手当の所得制限は撤廃し、支給期間を高校卒業まで延長すると明記された。高所得世帯にまで現金を支給する妥当性や、限られた資源を有効活用する観点を踏まえれば、所得制限を設けるのが本来の姿だ。これを撤廃するのならば、その効果を十分に見極めなくてはならない。

産後の一定期間に夫婦ともに育児休業を取得した場合の給付については、手取りで休業前の実質10割となるよう引き上げる。男性の育休取得に有効な施策として評価できる。男女ともに仕事と育児の両立が可能な社会にすることが重要だ。育児の負担が女性に集中する「ワンオペ育児」からの脱却を社会全体で図る必要がある。

短時間勤務でも手取りが変わらないようにするため、子供が2歳未満の期間に時短勤務を選択した場合の給付も創設する方針だ。多様な働き方を促すのはいいが、女性ばかりが時短勤務を選択する事態にならないよう、制度設計で工夫をこらすべきである。

このほか、非正規雇用の正規化については具体策が乏しく、踏み込みが足りないのが残念だ。

最大の課題は財源である。政府は4月以降、首相の下に新たに創設する会議体で財源の議論を行うというが、現段階で予算規模も示さず、財源確保のメドも提示できないようでは、対策の実効性が担保されているとは言い難い。

人口減でも豊かさ保て

少子化対策は継続性が大事であり、安定財源が欠かせない。政府は消費税増税には否定的だ。医療や介護などの保険料を増額することで財源を捻出する案も浮上しているが、本来とは異なる目的で保険料を引き上げることに対し、国民の理解を得るのは難しい。

政府の全世代型社会保障構築会議が昨年12月にまとめた報告書には「児童手当の拡充などについて恒久的な財源とあわせて検討」と明記された。ところが、今回の試案に「恒久的な財源」という言葉は見当たらない。少子化対策を画餅にしないためにも、税制を含めて安定財源を検討することが将来世代に対する責任である。

岸田首相は「これから6年から7年が、少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスだ」という。ならば首相自らが安定財源の確保を含む抜本的な対策の必要性や意義をもっと説くべきだ。

少子化対策と同時に、政府は人口減少を前提にした社会の在り方についても、議論を深めてもらいたい。出産期の女性が減少する傾向はしばらく変わらないため、出生率が多少改善したところで、出生数の減少は続くことが予想されるからだ。

日本が直面する人口減少社会は超高齢社会でもある。今後は働き手不足の問題もますます深刻化する恐れがある。消費が継続的に落ち込み、国内市場が縮小するような事態になれば経済への影響も避けられまい。豊かさを維持するために、どのように社会構造を作り替えるべきか。その絵図を示すのも岸田政権の責務である。

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