高齢者介護に携わるヤングケアラーの多くは母子・父子家庭で要介護者と同居し、家族総出で介護している-。NPO法人「となりのかいご」が行った調査で、こんな実態が浮き彫りになった。6歳以下のヤングケアラーの11%は「ほぼ毎日」介護を行っていると回答しており、同法人代表の川内潤さんは「子供が介護に協力するのを『えらいね』と称賛する風潮は、ヤングケアラーを生み出す要因になっていると、社会が認識する必要がある」としている。
調査は昨年11月、実親の介護をしており、子供がいる400人を対象にインターネットで実施。ヤングケアラーの実情を探るため、半数は子供が介護に携わっている人(ヤングケアラーがいる世帯)、残りはそうでない人に調査対象を設定し、各項目を比較した。
家庭環境を比べると、ヤングケアラーがいる世帯は66%が要介護者と同居していたが、いない世帯は36%。また、いる世帯の24・5%は配偶者と別居しており、いない世帯(6・5%)との差が顕著だった。介護に携わる人数は、いる世帯の方が大人も含めて多く、複数の子供が携わっている人が多かった。
ヤングケアラーの介護従事状況をみると、6歳以下の11%が「ほぼ毎日」介護していると回答。7歳以降は20%が週2~3日、15~24%は4日以上介護していた。介護に対する意識を聞くと、「家族で介護するのが望ましい」と答えたのは、ヤングケアラーがいる世帯が58・5%と、いない世帯(49%)より高く、「他人に介護は任せられない」も8ポイント高い32・5%。介護サービスなどの利用より、家族介護を支持する傾向が浮かび上がった。
要介護者と介護者の関係性を尋ねた質問で最も顕著な違いがあったのは「親からどう評価されるか、気になる」で、ヤングケアラーがいる世帯が47・5%だったのに対し、いない世帯は31%。一方、「親は私の考え方を尊重してくれていると感じる」「親をいたわっている」はいずれも、ヤングケアラーがいる世帯の方がいない世帯より低かった。
調査結果から川内さんは、ヤングケアラーがいる家庭の指向性を「社会での介護よりも家族介護を評価し、要介護者からの評価が気になる傾向が強い」と分析。「親が喜ぶように、と直接介護を選ぶ背景には『家族を介護することは親孝行』という意識がある。だが、それは過度な介護負担を家庭に持ち込み、無意識のうちにわが子をヤングケラーにしてしまう可能性があることを、一人でも多くの人に気づいてほしい」としている。
◇
厚生労働省が令和3~4年に行った実態調査では、小学6年生の15人に1人、大学3年生の16人に1人が「世話をしている家族がいる」と回答。家族の世話をする小学6年の76%は周囲に相談した経験がなく、うち72%は「誰かに相談するほどの悩みではない」と回答している。ヤングケアラーは本人が負担を自覚できなかったり、親が「家庭の問題だ」と支援を拒むなど、支援そのものの難しさも指摘されている。
川内さんは、「『家族みんなで介護しよう』と親に言われて育った子供はそれが当然だと思い、遊びやスポーツなど、自分のやりたいことを楽しむのは『悪いこと』と思ってしまう。自立的に判断できないときから介護が始まると、介護がつらいと思うことさえ『自分が悪いからだ』と考える。介護のことを相談しようとは思わないだろう」と指摘する。
家事を手伝い、介護が必要な家族の世話をする子供は昔からいた。ただ、共働きの増加や核家族化など、社会構造の変化により、子供にかかる負担は大きくなっている。昭和35(1960)年の1世帯当たりの平均人数は4・14人だが、令和2(2020)年は2・21人だ。
川内さんは、何らかの事情で配偶者と別居になった親が子育ての負担軽減を図ろうと自分の親と同居後、その親が要介護となり、結果的に子供がヤングケアラーとなるケースを多く見てきたという。「高齢で独り暮らしの親が心配だから同居しようかと考えている」という共働き世帯の相談者に、「お子さんがヤングケアラーになってもいいんですか」と再考を促したことも多い。
川内さんは「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者となる令和7年以降、こうした家庭内でヤングケアラーが「爆発的に増えかねない」と危機感を強めている。「ヤングケアラーを生み出し、子供たちに将来の夢や希望を諦めさせてしまうのは、親の家族関係や社会の意識ではないか。子供たちの未来を奪ってまで、家族で介護する意味があるのか、社会全体が認識を改め、啓発を進める必要がある」と話した。