朝晴れエッセー

愛しくも心配な祖父母・4月1日

祖母が転倒による大腿(だいたい)骨頸部(けいぶ)骨折で入院した。認知症への第一歩ともいわれる骨折に長期入院を覚悟した。だが、一番心配すべきは祖父である。一匹おおかみでありながら祖母ラブな祖父。口には出さないがひどい落ち込みようであった。

毎日かかさず見ていた新聞は郵便受けの中。ニュースの時間になればいそいそとつけていたテレビは消えたまま。揚げ句の果ては、徒歩1分のスーパーに遠いから行かないという始末。これでは祖母より先に祖父がぼけてしまうと思い、足しげく祖父の家に通い時間を共にした。

祖母の入院食を調べ同じメニューにしてみても、大好きなパンやアイスを買ってみても浮かない顔のまま。普段は有効な孫効果も今回ばかりは効果なし。わずか1週間でこんなでは本当にぼけてしまうと焦っていたとき、祖母から衝撃の連絡が届いた。

数カ月はかかると言われていた入院が、たった2週間でよいらしいと。疑惑しかない。しかしコロナで容易に担当医と話もできないまま、早々に退院日が決まった。

普段なら、きちんとリハビリしてから退院しろと諭す祖父も、孤独に負けたのか正常な判断ができず、夫婦そろって退院モードになってしまった。もう何も言うまい。2人の多幸感に水を差してはいけない。

そして迎えた退院日。水を得た魚のように働く祖父。あんなに渋っていたスーパーにさっそうと出かけ、俺は見ていないと言い張っていたスポーツ番組を祖母と見ている。どうかくれぐれも再入院なんてことにならず2人で生きてほしい。


岩井七海(26) 兵庫県尼崎市

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