北朝鮮で幼少期から音楽の英才教育を受け、北朝鮮最高峰の音大で教授を務めた黄祥赫(ファン・サンヒョク)氏(49)が3月に初来日し、大阪市内でコンサートを開いた。西洋音楽に北朝鮮独自の文化を融合させたという「主体(チュチェ)音楽」を情熱的に奏でる誇り高きピアニスト。しかし2014年、ある事情から妻子を平壌に残し脱北した。北朝鮮と家族、そして日本への思いとは。
3月15日、欧州の宮殿を思わせる大阪市中央公会堂のホールに澄んだ音色が響いた。黄氏は北朝鮮音楽から、欧米で親しまれる賛美歌、クラシックまで12曲を独自のアレンジで情感豊かに演奏。全国から集まった約250人の聴衆を引きつけた。
「ピアノは西洋文化だが、北ではわが国の音楽を作ってきた。ベートーベンやショパンがクラシックとして現代まで受け継がれてきたように、わが国の音楽を伝えたい」
黄氏に初来日公演への思いを問うと、音楽家としての自負が垣間見えた。
祖父が護衛司令部の副部長を務めたという上流家庭に生まれた黄氏。幼稚園の頃から16年にわたる音楽の専門教育を受け、平壌音楽舞踊大学(当時)を卒業した。わずか20歳で音大教授になったという華麗な経歴を持つエリートだが、「恩師がご年配だったため、跡を継ぐように教授になった」と控えめに語る。