【ワシントン=坂本一之】バイデン米大統領(民主党)は3月31日、トランプ前大統領(共和党)の起訴に関し「コメントしない」と沈黙を守った。2024年大統領選でホワイトハウス奪還を目指すトランプ氏は起訴を「選挙妨害」と訴え、バイデン氏への敵意をむき出しにする。大統領選出馬に意欲を示すバイデン氏は不用意な発言で足元をすくわれないよう警戒している。
記者団「起訴は国をさらに分断するか」
バイデン氏「それについてはノーコメントだ」
記者団「デモは心配か」
バイデン氏「トランプの起訴に関して話すつもりはない」
トランプ氏起訴から一夜が明けた31日朝、ホワイトハウスで記者団がコメントを引き出そうと幾度も試みたが、バイデン氏の口は堅かった。
トランプ氏の起訴は、大統領選で自身の追い風となる可能性がある一方、共和党が結束し激しい選挙戦となることもあり得る。皮肉を交えてトランプ氏や共和党を批判する普段の姿はなかった。
バイデン氏は共和党の躍進を阻止した昨年11月の中間選挙で、2期目の出馬に関し「意思はある」と述べ、最終判断は「来年初めになると思う」と語った。
しかし今年1月、副大統領時代の機密文書が個人事務所に持ち出されていた問題が発覚。最終判断の発表機会を失ったバイデン氏は政府の経済対策をアピールする地方訪問を精力的にこなし、大統領としての露出で支持拡大を図ってきた。
最近の地方視察では共和党の政策批判を強めており、米メディアは「政治的メッセージを鮮明にし始めた」と指摘する。民主党内では「トランプ氏に勝てるのはバイデン氏だ」と出馬を支持する声は強い。
ただ、有権者の支持は伸び悩んでいる。米政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によると、バイデン氏の支持率は物価高が直撃した昨年7月の36%台から42%台に回復したものの、不支持率は53%台と高く、無党派層の取り込みが課題となっている。
今回、全米が注目する起訴でトランプ氏批判を展開すれば、政争を忌避する無党派が離れていく恐れもある。さらに、トランプ氏は起訴を民主党の「魔女狩り」と批判し、共和党議員らは大統領選を前にした「バイデン氏の政敵の迫害」と主張する。
不用意な発言で民主党側の権力乱用を疑う声が広がれば、自身や党へのダメージとなる。バイデン氏は発言を控えた安全運転で世論の変化を探る。