「私は無実です」衝撃の町長逮捕…捨て身の「定住PR」動画の気になる中身

PR動画の連行シーンで「無実です」と叫ぶ山本雅則町長の迫真の演技(岡山県吉備中央町提供)
PR動画の連行シーンで「無実です」と叫ぶ山本雅則町長の迫真の演技(岡山県吉備中央町提供)

岡山県の吉備中央町が運営する動画投稿サイト「YouTube」の公式アカウントに、「町長逮捕」という衝撃的な内容の動画がアップされ注目を集めている。定住促進のためのドラマ仕立てのPRの一環だが、迫真の連行シーンを信じてしまった人もいたとか。捨て身のPRに挑戦した山本雅則町長は「他に負けないレベルの子育て施策と自負するが、なかなか知ってもらえない。町の知名度不足が要因だと思い、とんがったものに挑んでみた」と話している。

PR動画で裁判を受ける山本雅則町長。判決はいかに(岡山県吉備中央町提供)
PR動画で裁判を受ける山本雅則町長。判決はいかに(岡山県吉備中央町提供)

子育て世代に届くのはSNS

動画の第1話では、庁舎から若い刑事に抱えられ連行される山本町長が「私は無実です」と叫んで車両に乗せられて去る。

2、3話で取り調べが進むうちに、容疑は「町民にお金を渡した」(第1子の子育て世帯応援金総計100万円、子育て世帯の住宅新築に基本120万円)、「お金を集め過ぎた」(ふるさと納税や町営太陽光発電で約10億円の歳入を実現)と分かり、最終的に定住促進をPRする動画と判明する。第4話の裁判では驚きの判決が出され…。

「18歳未満医療費無料、給食費無料、通学費助成などを実現しているがパンフレットでは浸透しなかった」と山本町長。「対象となる若い世帯に届くにはSNSが有効」と、昨夏、職員有志にアイデアを募ったところ動画の提案が出てきた。

有志の提案は、町長逮捕という強烈なつかみから始まる連続ドラマ。山本町長は「率直に大丈夫なのか」と思ったというが、法律に従う、噓や社会的な道義に反しないなどの条件は守っており「思っている以上のアイデア。これで支持がガタガタになるなら自分の力がないだけ」と、腹をくくった。

撮影は12月に行い、1月下旬から1週間に1話ずつ公開した。撮影場所や小道具などは庁舎内で用意できるものを使い、スマートフォンで撮影し無料ソフトで編集、コストを抑えた。

PR動画の取り調べシーンはリアルに見え過ぎない演出がなされている(岡山県吉備中央町提供)
PR動画の取り調べシーンはリアルに見え過ぎない演出がなされている(岡山県吉備中央町提供)

リアル過ぎて思わぬ反響

出演者は全員職員で、企画した職員は「本物の警察官に依頼したのかと聞かれるほど若い刑事役の2人がはまり過ぎて、町長は悪いことをしていないのになぜ捕まるのかという声が寄せられたほど。2話以降はコメディー感を強くした」と振り返る。

就任11年目の山本町長は「賛否は分かれると思うが、職員が頑張ってくれたので下手な演技でも本気で臨んだ」と話した。

吉備中央町は岡山県の中央部に位置する人口1万435人(3月1日現在)の町で、町内にICがあり、広島、関西、四国、鳥取の各方面へ高速道で通じており、岡山桃太郎空港へも車で30分前後と交通の便は良好だ。

独自施策には財源確保が不可欠として、ふるさと納税や町有地へのメガソーラー設置などで、就任当初は18%程度だった自主財源率を36%まで引き上げた。ふるさと納税は返礼品の「ふるさと米」が好評で、礼状として年賀状を送るなど、リピーターをつなぎとめるよう工夫している。

首都移転候補地として活用が見込まれる吉備高原都市地区(岡山県吉備中央町提供)
首都移転候補地として活用が見込まれる吉備高原都市地区(岡山県吉備中央町提供)

首都圏一極集中はリスク

定住・移住の促進は、候補地に名乗りを上げている首都移転の推進にもつながるという狙いだ。昨年11月には「首都移転を考えるシンポジウム」を開催した。

シンポジウムでは、パネリストのNPO法人地球年代学ネットワーク、板谷徹丸理事長が「吉備高原地帯は深さ20キロまでが一枚の硬い岩盤のため活断層がなく直下型地震の心配がない。約3400万年前に(大陸から日本列島が分離して)日本海が開けた大変動で、大陸が激しく変動しても吉備高原は変動しなかったとの研究結果がある」と力説した。

平成26年に小説「首都崩壊」、令和3年に単行本「首都岡山」を出版し、首都移転候補地として吉備中央町を推す岡山県出身の作家、高嶋哲夫さんもビデオメッセージを寄せた。

昭和48年に「岡山県の真空地帯」解消を狙って県の「吉備高原都市構想」が策定され、1900ヘクタールに3万人を居住させる計画だったが、バブル崩壊が直撃し、広大な用地は残されたまま。

東日本大震災以降は問い合わせが増え、令和元~3年度に398世帯が移住している。移住者の起業ニーズをふまえて「オープンイノベーション協会」を発足させたり、政府の「デジタル田園健康特区」の指定を受けたりしている。

山本町長は「大災害を考えると、首都圏に政治や経済やあらゆるものが一極集中しているのは大きなリスク。地方が住みやすくなって、地方に住みたい、戻ってきたいという流れを強力につくり出さなくては。震災に強く、子育て環境良好と広く知ってもらい、全国の中山間地域のモデルになれるように」と話す。捨て身のPRは呼び水となるのだろうか。(和田基宏)

会員限定記事会員サービス詳細