夜明け前の5時半前、下関駅(山口県下関市)の9番ホームで出発を待つ2両編成のディーゼルカーはエンジンを震わせ、関門海峡に臨む街の冷たい空気を震わせていた。これから、この列車に乗り込む。目的地は京都府の福知山駅(福知山市)。夜の23時過ぎまで約18時間の旅になる。
「時刻表復刻版1982年11月号」(JTBパブリッシング刊)の山陰本線のページを開いてみよう。関門海峡の九州側に位置する門司駅(北九州市)を朝の5時22分に出発し、日本海沿いに山陰本線を各駅停車で進み、終点の福知山に23時51分に着く普通列車がある。列車番号から「824列車」と呼ばれた列車は当時、走行距離595・1キロの「日本最長距離鈍行」だった。
多くの鉄道旅行記を発表した作家の宮脇俊三氏が作品で紹介したり、鉄道月刊誌で乗車ルポが掲載されたりして鉄道ファンの間では有名だった。今回はかつての824列車に近いダイヤで列車を乗り継ぎ、汽車旅を味わいたい。目的はそれだけではない。JR西日本は利用者が少ない路線として1キロあたりの1日平均利用者数(輸送密度)が2千人未満の区間を公表しているが、山陰本線は半分以上が対象になっている。朝から晩まで列車に乗り、ローカル線の現状を見てみたい気持ちもある。
門司-下関間は早朝に該当する列車はなかったため、下関をスタートとした。第1走者の長門市行きは5時39分、下関駅を発車。2両編成での乗客は自分も含めて2人だけ。何とも静かな旅立ちだった。