災害大国・日本を守れ! スペシャリスト集団・警視庁特殊救助隊創設10年

横転した車内から被災者を救助する訓練を行う各県警の研修生=3月20日、立川市
横転した車内から被災者を救助する訓練を行う各県警の研修生=3月20日、立川市

東日本大震災を機に発足した警視庁災害対策課の特殊救助隊、通称「SRT」(Special Rescue Team)が4月1日、創設10年を迎える。自然災害や水難、山岳遭難などに24時間体制で対応し、救出救助活動を行うスペシャリスト集団はこの10年間、東京都内だけでなく、国内外の災害現場に出動。全国の警察から研修生を受け入れるほか、高度資機材を活用するための最先端技術を習得するなど、災害大国・日本の対応能力向上の一端も担う。

「大丈夫、大丈夫。もう出られるよ、頑張ろうね。イチ、ニッ、サンッ!」

3月20日、東京都立川市にある「東日本災害警備訓練施設」。地震により建築中の建物が崩れ、巻き込まれて横転した車内から家族3人を救助するという想定で、訓練が行われていた。

参加していたのは昨年4月に特殊救助隊に研修生として派遣された福島、滋賀、鹿児島、兵庫、高知各県警の5人の警察官。1年間の研修期間終了が間近に迫り、仕上げの想定訓練を繰り返していた。

5人は被災者役の特殊救助隊員に声をかけて励ましつつ、車両後部のガラスを破って車内に侵入。電動ノコギリで運転席のヘッドレストを切断して取り除き、毛布で保護しながら運転席から救い出した。

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「これからの災害対応には、資機材面が重要になる」と語る警視庁特殊救助隊の清水邦彦隊長
「これからの災害対応には、資機材面が重要になる」と語る警視庁特殊救助隊の清水邦彦隊長

東日本大震災の経験を踏まえ、平成25年4月に発足した警視庁特殊救助隊。災害救助に特化した部隊として豊富な経験と高い技術を持ち、30年4月以降、19道府県23人の研修生を受け入れてきた。

全国各地の災害現場に派遣される同隊にとって、各道府県警や関係機関との連携が欠かせない。清水邦彦隊長は「顔の見える関係を作ることで現場でよりスムーズな活動をすることができる。今後も研修生と隊員との輪を広げ、生かしていきたい」と話す。

この1年間も、研修生は訓練だけでなく、実際の現場での救出救助活動や計画作成などに励んできた。

福島県警から派遣された塙健警部補は「日常(の訓練)で疑問点を解消し、レスキュー技術を上げられるかが一番大事だと感じた」。鹿児島県警の宅間尚武警部補は「自分の失敗や弱点を多く学んだ。警視庁で習った基本を基に、鹿児島流の救助を作り上げていきたい」と意気込む。

滋賀県警の倉田文裕警部補は「自県に照らし合わせた訓練を考えてくれたおかげで成長につながった」。高知県警の西本祥啓巡査部長は「警視庁の方と出会えたことは財産」と振り返った。兵庫県警の板羽雄一郎巡査部長は「しっかり後輩の指導育成に臨んでいきたい」と話した。

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発足以来、特殊救助隊が出動した災害現場は平成30年7月の西日本豪雨、令和3年7月の静岡県熱海市の土砂災害など国内9カ所。国際緊急援助隊の一員として、2015年のネパール地震や今年2月のトルコ・シリア大地震などの海外被災地にも派遣された。

死者58人、行方不明者5人を出した平成26年の御嶽山(長野、岐阜両県)の噴火では、酸素濃度の低い標高3千メートル近い山頂付近で活動。噴石の危険もある中、降り積もる火山灰に行く手を阻まれるなど、想像を絶する厳しさも経験した。

「3千メートル級の山は登るだけでもかなりの体力がいる。装備や体の使い方、体力や環境など山を知らないと難しい救助だった」。清水隊長はこう振り返る。

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過酷な現場での救出救助活動に備えた訓練は、はしごやロープの扱い方などの基本から、実際の現場を想定した救助犬や航空隊との連携など多岐にわたる。毎年冬には都内最高峰の雲取山(2017メートル)での訓練も実施。雪が積もる山中に宿泊し、遭難者の捜索活動やホバリングした機体からホイスト(電動式つり上げ装置)を使った救助訓練などを行うという。

救助資機材は年々高度化し、警視庁だけに配備された多機能重機車「ボブキャット」や自走式クレーン「ミニ・クローラークレーン」もある。ドローンでの情報収集など、高度な資機材を使いこなせる技術の習得も求められる。

清水隊長は「高度な資機材を使いこなしてこそ、高度な救助技術といえる。現場に出る者として資機材の開発にも関わっていきたい」と力を込めた。(大渡美咲)

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