大手町の片隅から

中国の日本人拘束 なぜ経団連は抗議しないのか 乾正人

中国人権侵害究明議連で講演する元日中青年交流協会鈴木英司理事長=2月17日午前、国会内(矢島康弘撮影)
中国人権侵害究明議連で講演する元日中青年交流協会鈴木英司理事長=2月17日午前、国会内(矢島康弘撮影)

昔、といっても14年前まで、日本経済団体連合会の本部がある経団連会館は、大手町の弊社から徒歩1分のところにあった。

「財界総理」との異名をとった2代目会長、石坂泰三氏の鶴の一声によって建設され、高度経済成長真っただ中の昭和41年に竣工(しゅんこう)した。

池も噴水もあった旧会館

地上18階、玄関前には池と噴水が設置された堅牢なビルで、高くても10階程度の建物が多かった大手町で威容を誇っていた。昭和の終わりに記者になった筆者も取材で何度か入館したが、「これぞ財界」という重厚な空気が漂っていた。大手町の再開発に伴い、経団連会館は日比谷通り沿いに高さ122メートル、地上23階のシャープな高層ビルに生まれ変わったが、引っ越して以来、気のせいかどうも存在感が薄くなった。

昨今の会長について、旧会館の会長室に陣取った土光敏夫、稲山嘉寛、奥田碩ら各氏に比べてどうこう言うのは、そもそも時代が違い、フェアではない。ただ、経団連自らが使命として明記している「経済界が直面する内外の広範な重要課題について、経済界の意見を取りまとめ、着実かつ迅速な実現を働きかける」ことをやっているだろうか。

経団連に加入しているアステラス製薬の男性社員が、中国から出国間際に「反スパイ法違反」容疑で当局に拘束された。これに対し、経団連は一片の声明も出していない。

拘束された社員は、中国駐在歴が長く、北京の日系企業で構成する中国日本商会の副会長を務めるなど、北京の日本人社会で頼りにされる存在だったという(「東洋経済オンライン」から)。

彼の拘束は、中国に駐在するビジネスマンを萎縮させ、日中間の経済活動を滞らせかねない重大事である。経団連は、迅速に経済界の意見を取りまとめ、即時釈放を求めなければならないのに動きが鈍い。

習近平国家主席が実権を握って以来、中国では言論の締め付けが厳しくなり、9年前に「反スパイ法」が施行されてから少なくとも17人の日本人が拘束された。

7年前に北京首都国際空港で取り押さえられ、6年間も拘束された鈴木英司氏の罪状は、既に報道されていた北朝鮮の話を中国政府関係者に雑談で聞いたことだったという。

この程度で「反スパイ法」が適用されるのなら、駐在員はみなスパイに仕立て上げられてしまう。

ではなぜ、中国当局は、日本人を標的にするのか。

スパイ防止法制定が急務

答えは簡単。主要先進国(G7)のうち、スパイを取り締まる法制度が整っていないのは日本だけで、対抗措置がとれないのである。

冷戦時代、ロンドンでソ連の大物スパイを拘束したとする。すると、ソ連はそれまで泳がせていた西側のスパイを逮捕し、交換を持ちかけるなど、両陣営は虚々実々の駆け引きをしていた。それは今も同じ。

しかし、日本は敗戦後、連合国軍総司令部(GHQ)によって諜報機関を解体させられ、外国でのスパイ活動を禁じられたばかりか、国内でスパイを捕らえられないのだ。

今こそスパイ防止法が必要なのは論をまたない。経団連こそ、法整備推進の旗を振らねばならない。

では、また再来週のこころだぁ。(コラムニスト)

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