【ワシントン=大内清】2024年米大統領選で返り咲きを狙う共和党のトランプ前大統領が、歴代の大統領経験者で初めて刑事訴追の対象となった。トランプ氏は2020年大統領選の開票プロセスへの介入や21年1月に起きた連邦議会襲撃事件への関与などでも捜査対象。トランプ氏の熱烈な支持者や共和党は、トランプ氏の復権を阻むための「魔女狩り」だと猛反発しており、政治的な緊張が高まるのは避けられない。
「精神に異常をきたした急進左派が国を破壊しようとしている」「ロシアや中国よりひどい」。トランプ氏はこのところ、自身の交流サイト(SNS)「トゥルース・ソーシャル」で訴追に向けた動きを激烈な言葉で非難してきた。自身が「逮捕される」と訴えた18日の投稿では支持者に抗議活動を呼びかけた。捜査を管轄する東部ニューヨーク州マンハッタンの検察当局をナチス・ドイツの秘密警察ゲシュタポになぞらえた投稿もある。「敵」を罵(ののし)って支持者の憎悪を煽(あお)る手法は健在だ。
トランプ氏は、今回訴追を受けたポルノ女優に対する口止め料支払いを巡る問題のほかにも複数の事件で刑事責任が問われる可能性があるとみられている。
南部ジョージア州では、トランプ氏が20年大統領選後に落選を覆すため、同州州務長官らに電話で「票を探し出す必要がある」と圧力をかけた問題を検察当局が捜査。同州フルトン郡の大陪審は関係者の訴追を勧告しており、司法の手が同氏やその周辺に及ぶかが注目されている。
大統領選が「不正によって盗まれた」とするトランプ氏の主張を信じた支持者による議会襲撃事件では、下院特別委員会が同氏の訴追を司法省に勧告。トランプ氏が退任時にホワイトハウスから機密文書を持ち出した問題でも特別検察官の捜査が進む。
一方、下院の多数派を握る共和党は、民主党のバイデン大統領の次男ハンター氏がウクライナや中国の企業から巨額の報酬を受け取っていたなどとされる疑惑の追及を進めてきた。
共和党はすでに、トランプ氏に近い下院司法委員会のジョーダン委員長ら有力議員3人の連名書簡で、口止め料支払いを巡る事件捜査を指揮する検事に議会での証言を要求するなど対決姿勢を鮮明化している。政争がいっそう激化するのは確実だ。