本当に巨人はリーグを脱退し「新リーグ」を作る気だろうか…。セ・リーグの各球団は漏れ聞こえてくる情報に神経をとがらせた。
「新リーグ? プロ野球はそんなに甘いものではない!」と鈴木セ会長はいうけれど、水面下では「巨人がすでに西武や阪急、近鉄など、パ・リーグ球団に声をかけている」という情報が飛び交う。このままでは取り残されてしまう―。まさに球団〝存続の危機〟だった。
昭和53年11月24日、セ・リーグのオーナー懇談会が東京・芝の東京グランドホテルで行われた。懇談会には巨人を除く5球団、ヤクルト・松園、大洋・中部、広島・松田、中日・小山各オーナー。阪神は岡崎代表が代理として出席した。
最大のテーマは「巨人の脱退」を止めること。そのためには巨人の悲願である「ドラフト制度撤廃」の方向へかじを切ることだった。
懇談会は冒頭から、この騒動の根底にあるものは何か。それを解決すれば「江川騒動」も解決へ向かう―という趣旨で話し合われた。2時間半後、音頭をとった松園オーナーが記者会見に臨んだ。
「ドラフト制度ができてから巨人以外の球団は、真剣に野球経営に取り組んできたのかを考えた。もし真剣に取り組んでいれば、これほどまでの〝巨人志向〟の選手は出なかった―という自己反省も行った。そして、いま起きている問題はドラフトに対する巨人の〝提言〟であり、制度そのものを考え直そうという意見でまとまった」
そして会見を終えた松園、松田、中部3オーナーたちは東京・大手町の読売新聞本社に正力オーナーを訪ね、「ドラフト制度を再検討するので12球団のオーナー会議に出席してほしい」と伝えた。
ドラフト制度の「再検討」を持ち出すことによって、巨人の心証を少しでもよくしておこうという狙い。そうすれば「新リーグ」のメンバーに選んでもらえるかもしれない。だが、マスコミやプロ野球ファンはお見通しだった。
「いま問題なのはドラフト制度の是非ではない。身勝手な江川との電撃契約やドラフトボイコットなど、巨人の一連のやり方への是非が問われているのであって、争点がすり替わっている」
マスコミはセ・リーグオーナーたちの動きを一斉に非難した。見出しも『ズレた焦点 早くも巨人にご機嫌伺い』『3球団 寝返りか』―。
それは巨人になびく球界への〝世論の逆襲〟だった。(敬称略)