北川信行の女子サッカー通信

工業団地と二人三脚…なでしこ目指す「和泉テクノFC」が持つ潜在能力

練習前、中塚監督を中心に円陣を組む和泉テクノFCの選手ら=大阪府和泉市(北川信行撮影)
練習前、中塚監督を中心に円陣を組む和泉テクノFCの選手ら=大阪府和泉市(北川信行撮影)

工業団地と女子サッカーチーム。接点を見いだしにくい組み合わせのように思えるが、現在の日本の女子サッカーを取り巻く環境をよくよく考えると、理にかなっているのではないか。チームにとっては複数の企業から財政的な支援が得やすく、社会人のアマチュア選手の雇用先もしっかりと確保できる。工業団地にとっては、入居企業で働く若手の人材を得られるほか、応援するシンボルが生まれ、企業間の親睦や交流が深まったり、一体感が醸成できたりする。

雨の中、練習に取り組む和泉テクノFCの選手ら=大阪府和泉市(北川信行撮影)
雨の中、練習に取り組む和泉テクノFCの選手ら=大阪府和泉市(北川信行撮影)

大阪府南部の和泉市に、地元の工業団地と二人三脚で歩むユニークな女子サッカーチームがある。2017年に発足した「和泉テクノFC」。1998年に産業用地の分譲が始まり、2006年に130区画が完売した総面積約103ヘクタールの工業団地「テクノステージ和泉」を本拠地とし、チーム名の「テクノ」にもその結びつきの強さが表れている。

チームを設立したのは、工業団地の入居企業約110社でつくる「テクノステージ和泉まちづくり協議会」。加納川快明会長は「もともとは入居している調味料メーカー1社のチームだった。協議会で協力できないかという話になり、日本全国から選手を集め、入居企業に就職してもらっている。それらの企業から協賛金をもらい、さらにスポンサー料などを募ってチームを運営している」と話す。

チームは2017年に関西女子サッカーリーグの3部に参戦。2018年に2部、2019年に1部へと順調にステップアップしてきた。しかしその後は、指導体制の変化や選手の入れ替わりなどもあって、1部で足踏み。2019年は1部2位、2020年は3位、2021年は6位、2022年は2位と一定の成績を残しながら、加盟基準の問題などもあってアマチュア最高峰のなでしこリーグ入りは果たせていない。

現在の目標は2025年に、なでしこリーグの2部に参入を果たすこと。和泉テクノFCの石井宏之理事長は「将来的には、なでしこリーグの1部にはいきたい」と力を込める。

社会人の選手らの大半は工業団地の入居企業で働き、夜に和泉市内のグラウンドに集まって練習する。大学生の選手もトップチームに加入。中学生、高校生が対象のユースチームも立ち上げた。

雨の中、練習に取り組む和泉テクノFCの選手ら=大阪府和泉市(北川信行撮影)
雨の中、練習に取り組む和泉テクノFCの選手ら=大阪府和泉市(北川信行撮影)

「選手の数はまだ少ないが、チームの利点を生かして獲得していきたい。2023年シーズンは、まずは関西女子サッカーリーグの1部残留が目標だが、チームの底力を上げていきたい」と中塚康博監督。スフィーダ世田谷FCやバニーズ京都SCでプレーした経験のある選手兼コーチの社納未樹さんは、昼間は工業団地内の企業で、パソコンを使った受注管理などの仕事を行っている。「(女子プロの)WEリーグができたことで、女子サッカーそのものへの認知度は高まっていると思う。和泉テクノFCのことも多くの人に知ってもらいたい」と話す。

テクノステージ和泉に入居している企業の業種は、食品製造業や繊維工業、鉄鋼業などさまざま。多様な企業が支援するのも、好不景気の影響を比較的受けにくいという点で、強みといえる。

まちづくり協議会の加納川会長は和泉テクノFCの選手たちが現役を引退した先も見据える。「選手をやめたあとも、入居企業の従業員として残ってもらいたい。結婚、出産して再びサッカーを始めてもらってもいい。そういう環境にしていくことが、女子サッカーを通じた地域振興につながるように思う」。今はまだ練習拠点なども整備されていないが、バックアップ体制の充実ぶりを考えると、アマチュアレベルでは理想的な環境となる可能性を秘めているように思う。今後、どのようになでしこリーグ入りに向けた準備を進めていくのか、注目していきたい。

和泉テクノFCの今季開幕戦は4月16日。奈良県フットボールセンター(奈良県田原本町)で、海南FCシャウトと対戦する。

今夏にワールドカップ(W杯)を控える女子サッカーの話題を定期的に発信します。


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