JR大阪駅に近接し、独特の円形と緑のツタに覆われた外観が印象的な「大阪マルビル」の建て替え作業が本格化する。31日には中核テナントの「大阪第一ホテル」が営業を終了し、同日深夜に屋上部分の電光掲示板が消灯。一部のテナントは5月末まで営業するが、今夏の解体工事開始に向け準備が進められる。50年の歴史を刻んできた〝大阪のランドマーク〟も、間もなく見納めだ。
大阪マルビルは解体後、2025年大阪・関西万博用のバスターミナルとして敷地が使用され、令和12年春の完成目指して新ビルが建設される。
開業は昭和51年4月。日本初とされた円形超高層ビルは、完成当時は梅田周辺のどこからでも視界に入り、大阪のランドマークとして市民に親しまれてきた。屋上には「回る電光掲示板」が設置され名物に。昭和62年にはバブル期を象徴するディスコ「マハラジャ」が開店するなど、時代を象徴する話題も提供してきた。
ただ、バブル期の投資で過剰債務を抱え、平成16年には産業再生機構が運営会社への支援を決定。同社はその後、大和ハウス工業の傘下に入った。
運営会社の会長だった故・吉本晴彦氏は、大阪・梅田一帯の大地主だった家系の分家出身だったことで知られるが、機構の支援を受けるにいたった経緯の責任を取って会長を退任。さらに自宅を売却するなどして約5億円の私財を借入金の返済に充てた。
回る掲示板は15年、周りに高層ビルが林立して見えづらくなったこともあり、撤去。17年、LEDを使用した、窓の形の今の電光掲示板を屋上に設置した。25年には建築家の安藤忠雄さんらによる、ビルを〝大木〟に見立ててツタで緑化するプロジェクトなども行われ、市民の憩いの場として親しまれてきた。
ただ、集客力などの点でも他のビルの後塵(こうじん)を拝するようになり、令和4年に建て替え方針が発表された。
大阪駅周辺では、旧大阪中央郵便局跡地や大阪駅西側で新たなビル建設が進み、大阪駅北側の再開発地域「うめきた2期(グラングリーン大阪)」の先行街びらきも6年夏に予定されるなど、再開発ラッシュが続く。12年完成予定の大阪マルビルの建て替えはそれらに続く事業になる。現在、約123メートルのビルはさらに高層化される計画だ。
不動産経済研究所の笹原雪恵・大阪事務所長は「うめきた2期が大阪駅北側で整備されているのに対し、大阪マルビルの建て替えは駅南側で行われる。その意味で、大阪の新たな玄関口を作る再開発事業としても、期待が集まるのではないか」と指摘している。(黒川信雄)