中国最古の兵法書である『孫子』は計13編のうち、最後に「用間篇(へん)」を充てている。「間」とは「間諜」つまり「スパイを用いる篇」である。当然、敵国からスパイが送られた場合の対策も用意していた。買収し二重スパイにして敵に送り返せというのだ。偽の情報を相手に伝えれば、潜入した味方のスパイも働きやすくなる。
▼中国が2600年前の兵法書を参考にしているのは明らかだ。もっとも、むやみに外国人をスパイと決めつけ自由を奪っていいとは書いていない。北京市でアステラス製薬の現地法人幹部の男性が当局に拘束された。中国外務省の報道官は、中国の反スパイ法に違反した疑いがある、と説明する。
▼習近平政権の下で法律が2014年に施行されて以来、今回を含め少なくとも17人の日本人が拘束されてきた。この法律が恐ろしいのは、条文があいまいな点である。今回も男性のどんな行為がスパイと判断されたのか一切説明がない。50代の男性は中国でのビジネス経験が長く事情に通じていただけに、頼りにしてきた現地の日本人社会の衝撃は大きいはずだ。