ポトマック通信

親しみ生むソフトパワー

この週末、いつもはガラガラの地下鉄のホームが人であふれていた。何人かの肩や髪の毛に桜の花びらが付いている。ワシントンで恒例行事の「全米桜祭り」の帰りのようだ。

日米友好を願い、1912年に東京から苗木約3千本が贈られたことにちなむ祭典。新型コロナウイルス禍前は毎年約160万人が訪れたという。ポトマック川沿いの桜は日本にいるような錯覚を起こす。

地元の大リーグやプロバスケットボールNBAのチームが、桜をイメージしたデザインのユニホームを出すなどワシントンのシンボルになっている。

米国人から「日本で桜を見るならどこがお薦め?」と聞かれれば、下手な英語でも会話が弾む。日本政府職員も語っていたが、米国で日本のソフトパワーに助けられることは多い。

先日、米政府関連機関で担当者にあいさつをすると、IDホルダーのストラップが漫画「鬼滅の刃」のデザインだった。英語の呼び名を使って「『デーモン・スレイヤー』が好きなんですか」と語りかけると、相手は「息子が大好きなんですよ」と笑顔になり、距離が一気に縮まった。

政府間対話ではつくることのできない「親しみ」を生み出す日本のソフトパワーが、日米関係の縁の下の力持ちであることを改めて実感した。(坂本一之)

25日、米首都ワシントンのポトマック川隣接の池タイダルベイスンで、桜を観賞する人(共同)
25日、米首都ワシントンのポトマック川隣接の池タイダルベイスンで、桜を観賞する人(共同)




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