訪中の馬英九氏を蔡総統と対比 台湾識者「自由対民族主義」との指摘も

中国・武漢で会談する台湾の馬英九前総統(左)と中国国務院(政府)台湾事務弁公室の宋濤主任=3月30日(馬英九事務所提供・共同)
中国・武漢で会談する台湾の馬英九前総統(左)と中国国務院(政府)台湾事務弁公室の宋濤主任=3月30日(馬英九事務所提供・共同)

【台北=矢板明夫】台湾メディアは30日、与党・民主進歩党の蔡英文総統が米ニューヨークに到着したことと、最大野党・中国国民党の馬英九前総統が中国の湖北省武漢市を訪問したニュースを交互に伝え、2人の米国と中国での言動を「双英対決」(2人の英さんの対決)として比較するメディアもあった。馬氏の中国での言動について批判する意見が目立った。

台湾メディアによると、馬氏は30日、武漢市の辛亥革命博物院や新型コロナウイルスの関連展示が行われる武漢市資料館を訪れた。

武漢市は2019年、コロナウイルスの感染が中国で最初に拡大した都市として知られる。同市の資料館には、習近平国家主席の主導による迅速な対応で仮設病院を多く作り、各省から十分な物資を調達したなどとする当時の状況が展示されている。馬氏は見学後に記者団に対し「武漢での防疫の成果は人類全体への貢献だ」と中国側の当時の対応を絶賛した。

これに対し、台湾当局のコロナ対策の責任者の一人、王必勝氏は「どこが貢献なのか全くわからない。武漢発のコロナウイルス感染が世界に広がり、少なくとも7億人が感染し、700万人も亡くなっている」と馬氏の見解を批判した。

これに先立ち、馬氏は29日、1937年の「南京事件」の犠牲者を追悼する江蘇省南京市の「南京大虐殺記念館」を訪れた。「人類の歴史においてまれに見る野獣のような行為だ」と旧日本軍を批判した上で「すべての中国人はこの事件から学ぶべきだ」と強調。「(外国に依存しない)『自立自強』こそ、いじめられたり、踏みにじられたりされなくなる道だ」と強調した。一部の台湾メディアはこの馬氏の発言について「蔡政権の米国重視路線を批判している」と解釈している。

馬氏が28日に、南京で「振興中華」(中華民族を振興させよう)などと揮毫(きごう)したことも台湾で話題になった。国際政治評論家の呉嘉隆氏は「蔡氏が米国で強調するのは自由や民主主義といった普遍的な価値観だが、馬氏が中国で強調しているのは中国の民族主義だ。2人の違いが鮮明で、私たち多くの台湾人は馬氏の言動に違和感を覚える」と指摘した。

馬氏は30日夜、武漢で中国の台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室のトップを務める宋濤主任と会談した。

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