浪速風

小林一三翁の教え

宝塚大劇場前にある小林一三の胸像
宝塚大劇場前にある小林一三の胸像

今月、89歳で亡くなった元参院議長、扇千景さんは宝塚歌劇団で初舞台を踏んで間もない昭和30年に東映引き抜き騒動に巻き込まれた。扇さんが雑誌「家庭画報」(平成16年7月号)で発表した『逸翁と私』によると、東映関係者に湯豆腐をご馳走(ちそう)になり、うっかり仮契約にサインしたという

▶歌劇団創設者で、阪急電鉄創業者の小林一三翁は怒りもせず、「今すぐ大スターになって、お金も名声も手に入れたいなら東映に行きなさい。でもしっかり基礎を勉強し、女優として末長く活躍したいなら、うちに居りなさい」。扇さんが残留を願うと、一三翁は東映に頭を下げ、話をつけた

▶その後、扇さんは政界に進出し、女性初の建設相、参院議長や初代国土交通相を歴任。20歳そこそこの身に一生の身の振り方を考えさせてくれたと感謝した。昭和32年に死去した一三翁は知るよしもないが、俳優、そして人としての基礎を固めたことが転身後も糧となったことだろう。

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