ドラフト会議をボイコットした巨人はその日(11月22日)のうちに行動を起こした。午後3時過ぎから東京・大手町の読売新聞本社で、正力オーナーが緊急記者会見。会議の「無効」を訴えた。
「ドラフト会議はコミッショナー、セ、パ連盟会長ならびに各球団役員各1名で構成される―と野球協約に定められている。巨人が1名も参加していないのだから、会議自体が無効であり、当然、そこで選択された交渉権も無効である」
勝手にボイコットしておいて、なんという傲慢さ。さらに―。
「この提訴に対する相手側の返事次第では、さらなる方法を考えております」
それはまさしく、「機構脱退」「新リーグ設立」をにおわせた恫喝(どうかつ)だった。
ここで考えてみよう。今回の巨人と江川の〝電撃契約〟は法的にはどうなのか。ある弁護士はこう解説した。
「法的には巨人の勝ち。法律でいうなら〝盲点〟を突いたところはフェアではないし、道義的な責任を問われるべきだ。ですが、道義に反したからといって法律違反にはならない」
――ではこの先は?
「コミッショナーのところで〝答え〟が出ないときは裁判所に裁判を求めることになるでしょう。ただし、時間はかかるでしょう」
――もし裁判で巨人が勝ち、江川が巨人に入団したら、阪神はどうなる?
「熟慮のうえ〝指名してもよい〟という判断を下した実行委員会に過失は認められない。したがって損害賠償を請求する相手もなく、その場合は阪神の〝泣き寝入り〟ということになるでしょう」
阪神の泣き寝入り? そんなことを虎ファンが許すわけがなかった。
昭和53年オフ、連日、「江川騒動」を報じるスポーツ紙が爆発的に売れた。地下鉄の柱には「速報」のニュースが張られ、会社帰り多くのサラリーマンが僚紙「夕刊フジ」を手に取った。日本中が事の成り行きに注目したのである。
そんなある日、鈴木セ会長が語った。
「燃え盛る火は消えるまで待つしかない。プロ野球は正力松太郎さんが築いたもの。わたしも確固たる信念を持っている。巨人のリーグ脱退? プロ野球はそんなに甘いものではない!」
とはいうものの、しきりに流れてくる巨人のリーグ脱退の噂。そして「新リーグ結成」の声に、他球団のオーナーたちの心は大いに揺さぶられたのである。(敬称略)