デジタル技術の進展やスマートフォンの普及により、企業などの情報サーバーを保管するデータセンター(DC)の需要が拡大している。DCは首都圏に集中しているが、新設が相次いでいるのが大阪などの関西。首都圏のための災害時のバックアップ機能を果たすことができ、大都市圏で電力インフラなどの立地条件がそろっているためだ。ふくらみ続ける高速大容量の情報処理ニーズへの対応能力がDCの競争力の鍵となる。
機能性と安全性
大阪の都心から北へ約20キロに研究所や企業、住宅などの広大な用地が広がる国際文化公園都市「彩都(さいと)」。ここに2月17日、三菱商事などが出資するMCデジタル・リアルティ(東京)による「KIX13データセンター」(大阪府箕面市)が開設された。
「人工知能(AI)を活用していくためには、高速で安全性の高いデータセンターが不可欠」。オープニングセレモニーに招かれたある大手半導体メーカーの幹部はそう期待を込めた。
MCデジタル・リアルティは首都圏に計3棟(電力容量59メガワット)のDCを運用する一方、関西では彩都に平成29年6月から複数のDCを順次開設し、「KIX13」は4棟目となる。延べ床面積は約2万3千平方メートル。電力容量はKIX13が21メガワット、4棟で計74メガワットとなった。同社の手塚万峰(ばんぽう)社長は「4棟は相互に接続して一体運用するため、大容量の情報処理にも柔軟に対応できる」と語る。
彩都は地盤が固く地震や津波などの災害リスクが低いと同時に、顧客の多い大阪の中心部から遠すぎない。変電所2カ所から電力を引き込み、光ファイバー網も充実。サーバーにアクセスが集中して高い負荷がかかった場合にも十分な電力供給が可能だ。
災害などで障害が発生した場合の耐久性も高めている。一部で停電が発生してもサーバーに電力を送り、熱を排出する空調を稼働させ続けるため、二重の電気設備を整えている。
拡大する需要
富士キメラ総研の調査によると、令和4年のDCサービスの国内市場は3兆2458億円で3年の見込み額から10・4%増加、8年には3年見込み比36・8%伸びると予測。特にKIX13のような大容量の情報処理に対応できる「ハイパースケール」のDCの設置が拡大する。
背景には「DX」(デジタルトランスフォーメーション)と呼ばれる社会のデジタル化がある。ビジネスではAIを活用する場面が広がり、AIが質問に自然な文章で答える「Chat(チャット)GPT」も脚光を浴びている。スマートフォンの買い物サイトや交流サイト(SNS)、ゲームアプリなど、すばやい情報処理を求められるサービスは増え続けている。
DXの基盤となるのが、企業などがネット経由で情報を管理するためのクラウドサービス。米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)など海外の大手クラウドサービス業者が日本に進出し、クラウドのサーバーを置くためのDCの開設が加速している。
東大大学院の江崎浩教授(情報工学)は「ITサービスの情報処理が滞るとユーザーが離れてしまう。安全で効率性の高いクラウドやDCを選ぶことは企業などにとって大変重要だ」と指摘する。
不動産サービス大手シービーアールイー(CBRE、東京)の調査では元年現在、国内の主なDCの63%は関東に集中し、関西は23%。一方で、元年から6年までのDCの増加率は、東京23区が約5%に対し、大阪府は約40%に達すると予測する。
サーバーは近距離にあった方が情報の反応が速いため、DCは需要の最も多い首都圏に集積してきた。しかし、東京都心の土地代が高くなっていることや、首都直下地震など大規模災害のリスクを考慮し、関西で代替機能を担うDCを設ける企業が増えている。
競争の激化も
京都、大阪、奈良の3府県にまたがる関西文化学術研究都市(けいはんな学研都市)でもDCの開設が進む。けいはんな学研都市は彩都と同様、地震などのリスクが低く、大阪や京都の中心から約30キロに位置してアクセスしやすい。
今月13日には英Colt(コルト)データセンターサービスが、延べ床面積4万2千平方メートル、電力容量45メガワットの「Colt京阪奈データセンター」を開設。同社として首都圏に続き関西初の大規模DCとなる。
同社バイスプレジデントのクイ・グエン氏は「クラウドの拡大で大規模DCの需要が成長している。関西は首都圏とともに日本の重要な市場だ」と強調した。
関西テレビ放送とサンケイビルは今年1月、大阪市の東梅田地区でのDCの開発を発表。地上14階建てで8年1月から関西電力子会社のオプテージ(同市)が運用開始する。「主要なクラウドやネットのアクセスポイントがある堂島や心斎橋から3キロ圏内に位置し、安定した接続サービスを提供できる」と説明する。
DCには情報処理能力だけでなく、環境への配慮も問われる。江崎教授は「DCは多量の電力を消費する。投資家によるESG(環境・社会・企業統治)投資への関心の高まりを受け、再生可能エネルギー由来の電気を使うなどの取り組みを顧客側が求める。環境面でも競争が激化するだろう」と予想している。(牛島要平)