新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に食い止める「ゼロコロナ」政策を取ってきた中国で11月、厳格な行動規制に抗議するデモが各地に広がった。習近平指導部は12月、同政策の撤回に踏み切るが、防疫措置の緩和を受けて感染者が急増。日本をはじめとする各国は年末に入り、中国からの渡航者に対する水際対策の強化に乗り出す必要に迫られた。
国内で新型コロナウイルス感染症の流行「第8波」の足音が近づいていた2022(令和4)年11月11日、政府は都道府県による感染対策を強化するための仕組み「対策強化宣言」を新設すると発表した。外出自粛要請の対象を若者にも広げ、医療逼迫(ひっぱく)が懸念される場合には帰省や旅行の自粛も呼びかけられるようにした。
日を追うごとに増加していく感染者。日本医師会の釜萢(かまやち)敏常任理事は16日の記者会見で第8波に入ったとの認識を示したが、政府は第7波と同様に緊急事態宣言や蔓延(まんえん)防止等重点措置を適用せずに乗り切っていく。
第8波抑止への光明になるとみられたのが、国産初の新型コロナの飲み薬として塩野義製薬が開発した「ゾコーバ」だった。厚生労働省が22日に緊急承認し、咳(せき)や発熱などの症状を早く改善する効果が期待された。
感染拡大防止と社会経済活動の両立に向けた動きを活発化させる岸田文雄首相だったが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る問題をきっかけに政権運営は厳しさを増していた。死刑に関する発言が問題となった葉梨康弘法相や「政治とカネ」の問題が発覚した寺田稔総務相が相次ぎ更迭され、年末には秋葉賢也復興相も辞任に追い込まれた。
「白紙革命」中国全土でデモ
一方、新型コロナを徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」政策を堅持する中国は、11月に入って4月以来の勢いとなる感染拡大に見舞われていた。ロックダウン(都市封鎖)や行動制限などが過剰に強化され、市民の不満は高まっていく。
11月24日に新疆(しんきょう)ウイグル自治区ウルムチ市で発生した10人死亡の住宅火災を巡って、コロナ規制で救助が遅れたとの見方が広がり、交流サイト(SNS)には同市で群衆がデモ活動したとする映像が流れた。
これに触発される形でゼロコロナ政策への抗議活動は全国に広がり、首都北京や上海のデモでは習近平国家主席を批判する声まで出た。参加者が当局への抵抗を示す白い紙を掲げたことから、抗議活動は「白紙革命」と呼ばれ、「1989年の天安門事件以来の出来事」(台湾紙)となっていく。
市民の鬱積した不満を無視できなくなった習政権は12月7日、自宅隔離の容認など防疫措置の大幅緩和を明らかにし、事実上のゼロコロナ政策撤回に追い込まれる。この方針転換は感染者のさらなる急増を招き、日本や米欧など各国は中国からの渡航者に対する水際対策強化を相次いで発表し、警戒を強めた。
国際線の予約 前年の5倍に
「ウイルスとの共生」を進めた米欧各国を追うように、国内でもコロナ後の体制づくりが始まった。2日に成立した改正感染症法の付則に新型コロナの同法上の分類の見直しを検討することが盛り込まれたことを受け、政府は新型コロナを季節性インフルエンザと同じ「5類」に緩和する方向で議論を始めた。
「ぜひこの年末年始を乗り切り、来年こそは平時の生活を全面的に取り戻していきたい」。岸田首相は26日、都内で講演し、こう訴えた。
一方、厳しい局面の打開を図るため、首相は旧統一教会問題を巡る10日の被害者救済法成立を主導。16日に閣議決定した国家安全保障戦略など「安保3文書」では、敵の領域内の軍事目標を攻撃する「反撃能力(敵基地攻撃能力)」の保有を打ち出し、安保政策の歴史的転換を果たした。
コロナ禍での3回目の年末は感染者が減少する気配こそ見えなかったものの、行動制限はなく、徐々に〝日常〟を取り戻そうとする人々の姿が目立った。29日には年末年始の帰省ラッシュが本格的に始まり、駅や空港は大きな荷物を持った家族連れらで混雑した。
新幹線や飛行機の予約は回復基調が鮮明となった。JR旅客6社が16日発表した年末年始期間(28日~2023年1月5日)の新幹線、在来線の指定席予約状況は21年度同期比16%増。航空各社の年末年始(同)の予約状況も国際線が同5.1倍の計32万1000人、国内線が同1.1倍の計270万5000人だった。
(50)2022年8月1~10月31日 水際緩和、旅行支援スタート
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