朝晴れエッセー

水仙と保護猫・3月29日

季節はずれの暖かさに心浮き立ち、戸外に出てみた。いつもの散歩道の端に、黄色いつぼみを大きく膨らませた3本の水仙を見つけた。一度は通り過ぎたものの、そこは6年半前にベージュ色の子猫を保護した、まさにその場所だったことが脳裏をよぎった。

以前に成猫を保護して一緒に暮らしたことはあったが、子猫は初めてだった。両手の中にすっぽり入るくらいの小ささで、過ぎ去った台風の雨にぬれていた。ハンカチにくるんで家に持ち帰った。

それ以来、子猫はわが家の家族となった。座っておしっこをするので、それまで雄猫を飼ったことがなかった私は、てっきり雌と思ってハナちゃんと名付けた。3カ月がたって避妊手術のために獣医さんのところに行くと、雄だと告げられた。それで、名はハナ丸となった。

ハナ丸は活発なアメリカン・ショートヘアの血を引いているらしく、ネズミやスズメはもちろんのこと、コウモリ、ヒヨドリ、野バトまで捕まえてきて、家の中は野戦場のようになった。それが6年半続いたのだ。

ところが今年の2月初めに主人が自転車で転倒して入院することになった。不思議なことに、ハナ丸もその日から帰ってこなくなった。主人は1カ月で退院してきたが、ハナ丸は今も戻っていない。そんな矢先に見つけたのが、この水仙だった。ハナ丸が水仙になって、私のところに帰ってきてくれたのだと、自分に言い聞かせている。


兼子啓子(74) 宇都宮市

会員限定記事会員サービス詳細