体験型観光として人気の高い京都・保津川下りの舟が転覆した28日の事故。川に流された乗客は「死ぬかと思った」と声を震わせ、運航会社の関係者は「なぜ操船ミスをしたのか…」と頭を抱えた。新型コロナウイルス禍で落ち込んだ観光需要が回復する途上で起きた事故に、今後の京都観光への影響も懸念される。
運航会社「保津川遊船企業組合」の豊田知八代表理事(57)によると、事故が起きたのは急流の「大高瀬(おおたかせ)」というポイント。通常は手前のカーブで4人の船頭のうち、最後尾の舵(かじ)担当が水をかいて舟の方向を左右に操るが、今回は何らかの原因でうまく水をかけずに空振りする「空舵(からかじ)」の状態になり、舵担当がバランスを崩して川に転落したとみられる。
ほかの船頭3人は急いで立て直しを図ったが、舟はそのまま急流の左側にある巨大な岩に正面から衝突。後に横から押し寄せた水で転覆して全員が川に投げ出されたという。
4人の船頭はいずれも勤務歴9~30年のベテラン。死亡が確認された田中三郎さん(51)は、愛嬌(あいきょう)があって「さぶモン」と同僚から親しみを込めて呼ばれていた。豊田代表理事は「田中さんは優秀で、舟では保津川下りの歴史や環境問題などを笑いも交えながら楽しく案内していた」と振り返り、原因究明に努めると強調した。
乗客25人は救助後、下流の京都・嵐山にある旅館へ。消防による体調確認や警察の聞き取りに応じた後、搬送者以外は帰途についた。小学4年の息子(10)と2人で乗船したという大阪府摂津市の自営業の男性(40)は「衝撃があって川に投げ出され、100メートルくらい流された。死ぬかと思った」。息子は転覆の様子について「ふわっと舟が浮き上がったと思ったら、投げ出されていた。びっくりしたし、怖かった」と振り返った。
事故後、運航は中止となったが、乗船場には事故を知らずに訪れる外国人観光客も。米国のグラフィックデザイナー、エステバン・アルブラドさん(31)は「ユーチューブで舟を見て素晴らしいと思って来た。事故のことは知らなかった」と困惑した。