クローズアップ大阪・関西万博

想像力をかきたてる「バーチャル大阪館」での演出

2025年大阪・関西万博は、リアル(現実)だけでなくバーチャル(仮想空間)での出展をアピールポイントの一つにしている。会場に足を運ばなくても、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)といった先端技術により、スマートフォンやパソコンでどのように楽しめるのか。大阪府と大阪市などが出展する地元パビリオンの仮想版「バーチャル大阪館」(仮称)のディレクターを務める佐久間洋司氏(26)に聞いた。

バーチャル大阪館は、遊びに来たのにいつの間にか少しだけ寛容になれる、あるいは多様な価値観を受け入れようと考え方が変わるきっかけになる場にしたいと考えています。

いま検討しているものの一つは、音楽を基軸にVRやミュージックビデオの映像を活用して、没入感の高いコンテンツを作ること。「自分とは違う誰かのストーリー」の登場人物となって動くことで物語が進んでいく―。そうした体験を通じて「私が、あの人なら」「あの人が私だったら」といった想像力をかきたてたり、心に変化を起こしたりできればいいなと。

もう一つは、自分自身を知るためのコンテンツ。グループで共通のゴールを目指すなかで、自分がどういう選択や意思決定をしているかが可視化されるゲームを作れないかと考えています。ARなどを駆使し、他人にどういった影響を与えているかを見えるようにできれば、新たな「気付き」を得られるかもしれない。

どちらも主役は「人」です。他者を知り、自分を外から見ることで、対人関係やコミュニケーションが少しずついい方向に変わっていけばいいと思います。

1970年大阪万博とリンクさせた映像や物語も取り入れたいですね。当時のテーマは「人類の進歩と調和」でした。この50年余りで進歩はしたものの、調和からは遠ざかり、分断の時代になってしまった。バーチャル体験を通じて「人類の調和」を目指したい。

ただ、これって本当に難しいんですよ。主なターゲットは10~30代。いかに素晴らしい体験でも説教じみていては、多くの人に遊んでもらえないし、行動変容も起こせない。実現するための武器はエンターテインメントだと信じ、強くこだわっています。

3次元仮想空間「メタバース」での出展も検討しています。といっても単にリアル会場を再現するのではなく、空間と時間軸の制約がないバーチャルならではの強みを生かす。例えば環境技術で樹木が育ったり、薬を服用した後、細胞や臓器が変化したりする過程をミクロとマクロの視点でみせて、没入感を高める。

これとは別に(大阪府市が立ち上げたサイト)「バーチャル大阪」の監修をしています。メタバース内で分身となるアバターが大阪城などの名所を巡ることができ、お寺で住職の説法を聞いて仏像にお参りできるエリアもあるんですよ。万博の機運醸成のために70年万博と連携したイベントもやっていきたいですね。(小川原咲)

(提供写真)
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さくま・ひろし 平成8年、東京都生まれ。大阪大基礎工学部卒。政府に新たな研究開発目標を提案するムーンショット型研究開発事業の調査研究でチームリーダーを務めた。現在は東京大大学院総合文化研究科に在籍し、一般社団法人「人工知能学会」産業界連携委員を務める。大阪大グローバルイニシアティブ機構招へい研究員。令和3年から現職。

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