小林繁伝

「暴動許さぬ」「対立避けたい」…11球団の思惑 虎番疾風録其の四(192)

ドラフト会議をボイコットした巨人のテーブル=昭和53年11月21日、東京都千代田区
ドラフト会議をボイコットした巨人のテーブル=昭和53年11月21日、東京都千代田区

拳をおろすどころか巨人の態度はさらにエスカレートした。

実行委員会で「江川との契約は無効」と却下されると、午後7時過ぎから東京・大手町の読売新聞本社で善後策を協議。①ドラフト会議をボイコット②コミッショナーとセ・リーグ会長へ異議申し立て③東京地裁へ江川の支配下選手として〝地位保全〟の仮処分申請―を決定した。

これに対し11球団はどう出るのか―。これまでの調査では広島と大洋が木田勇投手(日本鋼管)。西武が森繁和投手(住友金属)。あとの8球団が江川指名―となっていた。だが、状況は大きく変わった。ある球団関係者はこんな本音を漏らした。

「今は球界も巨人に対して厳しい態度に出ているが、それもどこまで続くか分からない。指名権を取ったところで必ず江川を獲得できる―という保証もない。結局は巨人との〝けんか〟になる。それだけは避けたい」

そんな中、巨人の〝横暴〟に許すまじ!と真っ先に手を挙げたのは阪神の小津球団社長だった。

「これはドラフト制度の破壊だ。プロ野球を繁栄させ、守っていこうという精神からして断じて許されない」

すぐさま東京出張中の岡崎球団代表へ「江川を1位指名するように」と指令を飛ばした。

昭和53年11月22日、東京・飯田橋のグランドパレスホテル。ドラフト会場は朝から異様な興奮に包まれていた。前から3列目の10番テーブルに巨人首脳の姿はない。飲む人のいない氷水の入ったポットと5つのグラスに、容赦なくカメラのフラッシュが浴びせかけられた。

午前11時10分、1回目の投票が始まった。今回から各球団がそれぞれの希望選手を書き込む入札制。投票結果はウエーバー方式で(日本シリーズで敗れたリーグの最下位チームから交互に)読み上げられた。トップは南海ホークス。

「南海、江川卓、23歳、投手、作新学院職員」

「おおっ」というどよめきの中、続く阪神も江川を指名。だが、果敢に巨人に挑んだ球団は南海、阪神、ロッテ、近鉄の4球団だけ。大洋、広島、阪急が木田を、西武、日本ハム、中日、ヤクルトの4球団が森に入札した。

「世間を騒がせるような選手は問題がある―という球団の方針に納得した」

ヤクルトの広岡監督はこう語った。(敬称略)

■小林繁伝193

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