主張

ロシア戦術核 ベラルーシ配備の撤回を

ロシアのプーチン大統領が、同盟国ベラルーシの要請を受けたとして、同国へ露軍の戦術核兵器を配備する方針を明らかにした。

譲渡ではなく配備で、ベラルーシ軍には戦術核運用能力を付与する。

ロシアが侵略中のウクライナをめぐる情勢をさらに悪化させ、北大西洋条約機構(NATO)諸国の安全も脅かすのは明らかで、到底許されない。プーチン氏は配備方針を直ちに撤回すべきだ。ウクライナ全土から露軍を去らせるべきはもちろんだ。

プーチン氏によれば、すでにベラルーシ空軍機10機を核搭載仕様に改造済みという。同軍保有のロシア製弾道ミサイル「イスカンデル」も核弾頭を発射できる。

4月3日から戦術核運用の訓練をベラルーシ軍が始める。7月1日までに同国内に戦術核保管施設を建設し、管理は露軍が行う。

昨年、ベラルーシ領内からウクライナへ侵攻した露軍は反撃されて撤退した。今もベラルーシ国内にたむろしウクライナへ圧力をかけている。それに戦術核による威嚇を加えるわけだ。

ウクライナ東部の要衝バフムトの完全奪取を果たせないなど露軍の冬季攻勢は失敗したもようだ。戦術核配備表明は、戦局の打開策を見いだせないプーチン氏の苦し紛れの下策といえる。

ロシアやベラルーシが加入する核拡散防止条約(NPT)に直ちに反するものではないが、それは言い訳にはならない。

ソ連崩壊後のウクライナは戦術・戦略核兵器の保有国となったが、1994年に、すべての核兵器をロシアに引き渡すのと引き換えに、安全を核保有国に保障させる「ブダペスト覚書」を米英露と結んだ。

ベラルーシへの戦術核配備表明は、そのようなウクライナに対する卑劣な振る舞いである。

プーチン氏と、訪露した習近平中国国家主席との21日の首脳会談後に公表された中露共同声明は、全核保有国に対して海外に核兵器を配備しないよう求めていた。

舌の根も乾かぬうちに核の海外配備という恫(どう)喝(かつ)に乗り出したプーチン氏は常軌を逸している。

欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表は、配備されればベラルーシに新たな制裁を科す可能性に言及して警告した。日本も厳しい対応を検討すべきだ。

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