岸田文雄首相は令和5年度予算を年度内成立にこぎ着けたことで政権基盤を固め直し、反転攻勢の足がかりを得た形だ。首相は昨夏以降、内閣支持率が続落する状況から抜け出せずにいたが、日韓首脳会談やウクライナ電撃訪問などで追い風が吹きつつある。今後は「少子化対策」「防衛力強化」「エネルギーの安定供給」の3つの課題に道筋をつけながら長期政権を見据えた衆院解散・総選挙への戦略を本格化させる。
「子育て世帯に対する経済的支援に向け、児童手当の拡充や高等教育の負担軽減、さらには若い子育て世帯への住居支援など包括的な支援策を講じたい」
首相は28日の参院予算委員会で、今後の政権運営の鍵となる少子化対策の充実に向けた意欲を強調した。
昨夏以降、首相は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題や相次ぐ閣僚の不祥事などが直撃し、支持率が上向かない隘路(あいろ)にはまり込んでいた。だが、今月16日の日韓首脳会談直後の産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)の合同世論調査では支持率が45・9%と2月の前回調査から5・3ポイント増加。ウクライナ訪問後も含め報道各社の3月の世論調査は軒並み上向いている。
上昇気流をつかんだ首相を待ち受けるのが3つの課題だ。
政府は今月内に少子化対策のたたき台を公表し、6月の経済財政運営の指針「骨太の方針」に向け具体的な議論を進めるとともに、防衛費増額の一部財源を確保する特別措置法や、原発60年超運転を可能とする関連法改正案も今国会での成立を見込む。
ただ、これらは3つの課題の一部に過ぎず、いずれの課題も仕上げるには年単位の長期的なスパンが必要だ。首相が自らの手で成し遂げるには、衆院解散・総選挙に勝利した上で来年の自民党総裁選での再選が避けられない。
内閣支持率が上向き、永田町には「春の解散風」が吹き始めたが、首相自身は「解散はいろんなタイミングがある」と周囲をけむに巻く。側近の一人は「少子化対策や防衛力強化は首相の歴史的ミッションだ。石にかじりついてでもやる覚悟だろう」と首相が長期政権への展望を描いていることをほのめかすが、まずは来月に控える統一地方選と衆参5補欠選挙で結果を残し、党内の求心力を高めることが必要になりそうだ。(永原慎吾)