《情報番組のコメンテーターとしても活躍するテリーさんは、古希を前にリスキリング(学び直し)に挑戦。慶応大大学院政策・メディア研究科修士課程入学を果たす》
ままならないことをしてみたかったんです(笑)。それこそコメンテーターとかやってると、なんか偉そうじゃないですか。演出をやってるときは駆けずり回っていたけど、コメンテーターって上半身だけ。下半身を使ってないでしょ。「なんかこのポジションって、カッコ悪くない? どうなのよ」って自分でも思ったんですよ。
だって、俺の言ってきたことって大したことないもん。いや、本当にそうですよ。もっと深く考えてる人、勉強してる人っていっぱいいるのに、なんかたまたまテレビで俺がしゃべったことがネットニュースに出たって、「この程度のことで(発言を)選ぶなよ」って思うんですよ。相撲でいうと、土俵下で見てる検査役(現在の審判委員)。土俵に乗らないとカッコ悪いじゃないですか。
俺、大学紛争で目をけがしちゃって、あまり爽やかでない大学時代だったんで、もう1回受けようと思ったんです。
《神奈川県藤沢市のSFC(湘南藤沢キャンパス)まで自宅から愛車で通学。心理学を専攻した》
ちょっと違う視点で世の中を見るために何がいいのかなって考えて、心理学とか面白いかなって思って調べてたら、慶応大学のSFCって、やっぱりいい先生が多かったんです。ただそんな簡単に入れるわけじゃないんで、作文を書いて面接を受けたんですけど、すごく緊張しましたね。
やっと入ったんですけど、実は僕、満足にパソコンを使えなかったんです。隣の学生に「えっ、何も知らないの」って顔をされて、恥ずかしかったですね。「パワポって何?」って感じで、ほんとにパワースポットと(プレゼン用ソフトの)「パワーポイント」の差も分からなかったくらいなんです(笑)。最初は先生から「伊藤さんのは、それね、研究じゃなくてエッセーですよ。思ったことを書いてるだけです」って言われたりして(笑)。
でも、一生懸命勉強して、この3月に修了しました。28日に学位授与式があるんです。修士課程って2年じゃないですか。実はコロナ禍で2年休学したんですよ。で、足かけ4年かかりました。
研究テーマはね、「ラジオ通販で高齢者はなぜ(商品を)見ずに購入するのか」。返品率って、テレビ通販は5%なんですね。全米ではネット通販のアマゾンが20%超えって言われてるんですよ。で、ラジオ通販の返品率は1%なんです。
それはなぜか。信頼なんですよ。だから、その心理って何かなってのを研究しました。面白いでしょ? 先行研究もないから、先生方にも「それ面白いですね」って言われました。
《返品率はメディアの信頼度を反映しているのか。それとも、別の要因があるのか》
パーソナリティーですね。ラジオはパーソナリティーが商品を紹介するんです。テレビだったら、ウクライナとか北朝鮮とかのニュースの後に、キャスターが「さあ、ここでおいしい松前漬けの紹介です」ってならないですよね(笑)。
ラジオはウクライナの問題とかWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)のことを話してた人が突然、「さあ、ここからはシロアリ駆除。皆さん困ってませんか?」って、同じトーンで行くんです。これが圧倒的な信頼になるんですね。
ラジオは通販会社の人が出てくるってことがないんです。テレビ通販の人って声のトーンが高いでしょ。「さあ、お客さん!」って感じで。でも、ラジオはこの声ではだめなんです。「あ、こっからコマーシャルだ」って思うと警戒する。身構えるんですよ。そういう研究をしましたね。(聞き手 大竹直樹)