なぜ今?IR争点化 維新・非維新のコントラスト鮮明 都構想なき大阪ダブル選

4月9日投開票の大阪府知事・大阪市長のダブル選で、主要争点としてにわかに浮上した感があるのが、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致の是非だ。府市のトップを長く独占してきた地域政党「大阪維新の会」が政府・自民党とIR誘致を推進、すでに事業者選定や府市両議会の承認も終え、あとは国の認定を待つばかりとなっている。誘致自治体としての手続きはほぼ完了したともいえるIRが、「維新VS非維新」の対立軸として先鋭化した背景とは-。

対立軸示しやすく

「IRは争点じゃないんだけど、僕は正面から訴えていきます。相手はこれしか言わないから」

知事選で再選を目指す維新現職の吉村洋文氏(47)は23日、大阪市中央区の街頭演説でこう述べ、対立陣営のIR争点化について、受けて立つ構えを見せた。

今回の知事選では、非維新候補の5人がIRについて軒並み反対・慎重の姿勢を表明。市長選でも、事実上の一騎打ちとなる維新新人で元府議の横山英幸氏(41)と、無所属新人で元自民市議の北野妙子氏(63)がそれぞれ賛否の論陣を張る。

今回のダブル選で維新は支持者の間でも賛否が割れてきた看板政策「大阪都構想」の主張を封印。過去10年以上にわたって府市の行政運営を主導してきた「維新政治」の評価が選挙戦の底流をなし、論点がぼやける中で、対立のコントラストを最も鮮明にしやすかったのが、IRだったといえる。

争点でないはずが…

そもそも大阪のIR誘致は平成22年、シンガポールのIR予定地を視察した維新創設メンバーの橋下徹知事(当時)が、アジア諸国との都市間競争の起爆剤にしようと発案。その後、政府・与党によりIR関連法が整備され、自民の安倍晋三政権と蜜月関係にあった維新顧問の松井一郎・大阪市長らが人工島・夢洲(ゆめしま)(同市此花区)の活用策として誘致を推し進めてきた経緯がある。

令和3年9月には米MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスの企業連合に事業者を決定。昨年3月、府市両議会で整備計画案が承認され、同4月には国への申請も済ませた。

もっとも、そこに至るまでは紆余(うよ)曲折があった。IR事業者の募集段階では、開業時期を9年3月末までとしていたが、新型コロナウイルス感染拡大のあおりで11年秋~冬にずれ込んだ。夢洲の候補地では土壌汚染や液状化リスクも判明、市は土壌対策として当初想定になかった約790億円の公費負担を余儀なくされた。

IR開業により、府市が事業者から受け取る収入は年間1060億円と試算されているが、富裕層をはじめとするインバウンド(訪日外国人客)がコロナ禍で激減した後、どこまで回復するかはまだ見通せない。ロシアのウクライナ侵略に伴う世界的な燃料・物価高騰も、まだ「先の話」ともいえるIRの収支シミュレーションから、現実味を奪ってしまう。

こうした将来の不確定要素はそのまま推進派の維新に対する攻撃材料となる。それが「争点ではない」はずのIRが、争点となった背景にある。

選挙結果が審査に影響も

吉村氏はダブル選で年間1兆円超と試算するIR開業後の経済波及効果(近畿圏)をアピールし、IRに伴う府市の収入を福祉や教育の政策に充てると強調。ギャンブル依存症対策として相談・治療体制や入場規制の徹底を挙げ、「府市一体の成長戦略でやっていきたい」と横山氏とのセット当選を訴える。

一方、知事選で反対派の急先鋒(せんぽう)となる無所属新人で元参院議員の辰巳孝太郎氏(46)=共産推薦=は「地域で使われるはずのお金がカジノに使われ、地域経済が落ち込む」と経済効果を疑問視。非維新勢力の結集を目指す政治団体「アップデートおおさか」が知事選に擁立した法学者で無所属新人の谷口真由美氏(48)も「カジノですったお金を教育や福祉に回すというのは大阪の気質に合わない」と指摘する。

ダブル選でIR反対陣営は「情報開示が不十分なまま強引な議会運営で手続きが進められた」と批判し、住民投票で民意を問うべきだと主張している。

誘致の是非を問う住民投票条例の制定案はこれまでも府市両議会で提案されたが、いずれも維新、公明の反対多数で否決。仮に反対派のトップが誕生した場合も、両議会での合意という難題が待ち受ける。

もっとも国はIR認定の審査のポイントとして「地域における十分な合意形成」を挙げている。今回のダブル選で反対の民意が示されれば、今後の審査に影響を与える可能性はある。

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