文化庁の京都移転、課題山積 移転効果発揮には「大胆転換」の実行力

文化庁京都移転後の体制
文化庁京都移転後の体制

27日に京都に移転し、業務を開始する文化庁。京都移転を機に、文化行政を大胆に転換し、時代の変化に応じた取り組みを進めていくとしている。移転決定から7年、文化による地方創生や文化財の活用など新たな政策ニーズへの対応を進めるため、機能強化を図ってきたと胸を張る。ただ、取り組むべき課題は多く、移転効果を発揮し、東京一極集中の是正につながるかは、今後の実行力にかかっている。

政府が文化庁の京都移転を決めたのは平成28年。文化庁は移転に際し、政策立案機能の格段の強化と、観光・産業や教育、福祉、まちづくりといった関連業界との連携強化を課題に挙げた。具体的には、生活や若者文化への政策拡大▽文化芸術人材の育成▽障害者や高齢者、外国人ら多様なニーズに応じた文化芸術へのアクセス拡大▽国内外への戦略的発信-などだ。

この実現のため、30年10月に組織改編を実施。文化財などの分野ごとに分かれていた縦割り体制を見直し、文化資源の観光活用を進める課などを新設した。

しかし、令和2年春から新型コロナウイルスが猛威を振るい、この3年、文化芸術行政を巡る環境は厳しい状況が続いた。文化庁幹部は「予定していた政策やイベントの多くが白紙となり、日本の存在感を示すことがほとんどできなかった」と振り返る。

国内では長年、各地の文化財を活用した旅行商品開発によるインバウンド(訪日外国人客)獲得の有効性が指摘されてきた。だが、コロナ禍によりインバウンドは激減。効果的な政策を打ち出せなかった。

東京五輪・パラリンピックの延期・無観客開催も痛手だった。スポーツだけでなく日本の文化芸術を世界に発信し、存在感を高めることが期待されていたが、予定されていた関連イベントは中止・縮小された。

文化芸術行政が仕切り直しを迫られる中、新たな文化庁の船出となる。京都移転後は、長官を補佐する「長官戦略室」や「食文化推進本部」「文化観光推進本部」(いずれも仮称)が新設される。長官戦略室は情報発信の司令塔も担っており、早急にコロナ後の戦略立案が求められる。

ただ、新設3部署にはいずれも専任を置かず、幹部職員の兼務でスタートするため、即機能強化につながるかは不透明だ。

文化庁の新庁舎=26日、京都市上京区
文化庁の新庁舎=26日、京都市上京区

各種政策の成就には、関係省庁への働きかけや国会対応、国内外の各種業界・団体との関係構築が欠かせない。このため、文化庁全9課のうち4課、職員数でみると全体の約3割は東京に残る。また、目標に掲げる地方創生は全国各地が対象で、地方の自治体や企業とも効率的にコミュニケーションを取る必要がある。

このため、強固な連携が必要な東西の文化庁職員はテレビ会議などオンラインシステムの活用が必須となる。文化庁は令和2年度に、出張やオンライン業務の効果的運用を検証した。全案件でオンラインが可能だったものは26%。特に国会議員への説明案件は12%と低く、日常業務の大きな課題になっている。

民間企業ではコロナ禍でリモートワークが進んだ。文化庁の京都移転を機に、他の省庁や自治体、国会でもいっそう推進すべきだ。東京にいなければ政策を実行できないという非効率が続けば、東京一極集中の是正は進まない。(大泉晋之助)

文化庁移転控え京都で集い、首相「新たな文化振興に取り組む」

会員限定記事会員サービス詳細