前半戦が始まった第20回統一地方選では26日、6政令市長選が告示された。各地で論戦が繰り広げられる中、昨今の物価高の影響が押し寄せている。統一地方選は国政選挙と異なり、選挙の執行費用を各自治体が負担するが、選挙に必要となる備品の価格や人件費が高騰。予算額が前回選より高くなっているためだ。各自治体では補正予算を組んだり、物価高を見込んだ予算を組んだりして対応しており、担当者は「経費削減は努力だけでは難しい部分もある」と漏らす。
「予算額ベースで1割以上、高くなった」
東京都世田谷区選挙管理委員会事務局の織田健一次長(48)は影響をこう説明する。世田谷区では今回の統一地方選の予算として計約4億6300万円を計上しており、平成31年の前回選から約5千万円増加した。
原因の一つが、候補者のポスター掲示板の価格上昇だ。掲示板は選挙の投票区ごとに設置が定められており、世田谷区では約900カ所設置する。掲示板1つあたり価格が2割強上昇しており、織田次長は「ポスター掲示板が増加分の約半分を占めている」と話す。選挙公報の印刷や配布のための費用も上昇した。
世田谷区では令和3年度に予算を組んで準備を進めてきたが、価格高騰を受け昨年12月の区議会で補正予算を組んで対応。「一定程度、物価が上がっていくと見込んでいたが、去年秋から急激に物価が上昇してしまった。高騰を理由に取り組みをやめるわけにはいかない。経費は削減したいが、努力だけでは難しい部分がある」(織田次長)。
今回、県知事選と県議会選が行われる神奈川県でも、前回選から予算額が約7億円増えた。担当者は「物価高の影響に加え、前回選ではなかった新型コロナウイルス感染対策のための費用も必要となった」と説明。選挙にかかわる経費は法律で基準額が定められているが、同県では昨年の参院選で、すでにその額を上回る事態となったという。「今回は参院選の結果を踏まえて算出したが、法律では想定していないコロナ対策費に、物価高も加わっている」と嘆く。
ポスター掲示板を製造している「シナノスクリーン工芸」(長野県千曲市)の社長、山口和夫さん(48)は「材料費や燃料費など全部値上がりしている」と話す。材料価格は去年と比べ掲示板の骨組みとして使う木材は2倍、張り付けるボードは3割高騰。掲示板は選挙が終わると回収し、再利用しているが、それでも10~15%値上げせざるをえなかったという。「今まで17年ほど同じ価格でやってきたが、値上げに踏み切った。現在の物価高は異常だ」と話した。
ある特別区の選挙公報の印刷業務を受注した文京区の印刷会社は、価格を4年前より1割以上あげて業務を落札した。担当者は「やはり一番影響が大きいのは用紙代。種類によって異なるが、3割ほど上がったものもある」と話す。業界全体で値上げ傾向にあり、自治体側の予算額が見合わず、落札者が決まらないケースもあったという。
企業努力で価格を維持している会社もあり、物価高といえども価格競争は生じている。「原材料費を価格に反映せざるをえないが、あくまで入札なので、価格転嫁した結果、受注に失敗しては意味がない。かなり深刻な状況だ」と語った。
(深津響)