伸びるのは記録だけ 選手とメーカーが共同開発した「マラソン用ソックス」の実力

長距離走用に開発したスポーツソックス「ソックスラボ ランニング」=奈良県大和高田市
長距離走用に開発したスポーツソックス「ソックスラボ ランニング」=奈良県大和高田市

靴下生産で国内一の産地である奈良県のメーカーとマラソンの実業団チームが、高機能の長距離走用ソックスを開発した。これまでのアイデア商品で培ったノウハウとアスリートの経験、感覚を生かし、素材から形状、編み方まで足を快適に支える工夫を詰め込んだ。着用した選手は成績が上がったという。用具の革新の波はソックスにも広がってきた。

高機能ソックスの開発にあたったのは、筒状に生地を編む丸編み機を使った独自技術が強みの西垣靴下(奈良県大和高田市)。これまでにも、履くとつま先が反り上がって転倒予防になる高齢者用や、足の親指が開く外反母趾(ぼし)対策用など、アイデア商品を出してきた。

タッグを組んだのは、女子長距離走の実業団チーム「NARA-X(ナラックス)アスリーツ」。平成29年創部で現在5人が所属する。同チームの大歳研悟監督(46)に西垣和俊社長(65)から「靴下で選手をサポートしたい」と協力を申し入れた。

まず令和3年夏、西垣靴下が作っている通常の5足指靴下を各選手に提供。練習で履いてもらって感想や要望を集めた。「太い糸だと心理的に重く感じる」「かかとにフィットするようにしてほしい」といった声を西垣靴下側は「すべて取り入れて試作を繰り返した」(担当者)。

足に密着するゴム糸を使用し、走行中の衝撃緩和のため土踏まずの部分を厚く、路面を蹴る際に滑らないように足指部分だけに滑り止め加工を施し、各部で素材や編み方を変える-。技術とアイデアを総動員し、約1年かけてようやく完成の域に達した。

長距離走用の靴下で練習に励む「NARA━Xアスリーツ」の選手たち=奈良県橿原市
長距離走用の靴下で練習に励む「NARA━Xアスリーツ」の選手たち=奈良県橿原市

この靴下の効果を最も実感する1人が清水穂高選手(27)だ。平成30年2月の京都マラソンで2位になったものの、その後、フルマラソンでは後半に失速するスランプに苦しんでいた。しかし新開発の靴下を使った昨年8月の北海道マラソンで8位、同12月の奈良マラソンでは3位と調子を上げてきた。「足首の疲れも軽減され、快適で安定した走りが可能になる」という。

西垣靴下は「メーカーとマラソン選手が二人三脚で編み出した靴下を、市民ランナーにも愛用してほしい」として「ソックスラボ ランニング」の商品名で今年4月からホームページで販売する予定だ。

日本靴下協会(東京)によると、令和3年の国内の靴下生産量は9178万足で、地域別では奈良県が5413万足と全体の半分以上を占めている。ただ、安価な海外製品に押されて減少傾向にあり、個性的で高くても売れる商品開発が課題となっている。

一方で全国各地で開催される市民マラソン大会の人気は安定して高い。物価高で節約志向が強まる中でも、趣味にはお金をかける傾向が強まっており、ランニング用靴下にも商機がありそうだ。

西垣社長は「国内最大の産地である奈良発の靴下の高機能な側面も知ってもらいたい」と話している。(西家尚彦)

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