韓国政府が6日、いわゆる徴用工訴訟問題で、韓国政府系の財団が日本企業に代わって賠償金相当額を支払う、という「解決策」を発表した。にわかに日韓関係が動き出したわけで、両国の新聞・メディアも一斉に速報した。
「苦肉の策」「屈辱外交」と韓国紙の賛否こもごも、日本に対する韓国側の複雑な感情・姿勢、そして苦慮が、その論調にあらわれている。韓国的というべきか、内外の情勢をめぐるかの国の現状にほかならない。
米国との関係修復が、現政権の重要課題だ。ウクライナでの戦争もからんで、前政権の日米スルー・北べったりのようにはいかない。とはいえ、その本音は那辺にあるのか。かの国の輿論(よろん)は「解決策」にむしろ反対なのだろうが、そういえないところに苦境をみるべきではある。
そうした「解決策」に対する日本の報道が、これまたごく日本的だった。全体的な論調としては、「解決策」の内容に一定の評価を与えながらも、警戒感をにじませる。かつて慰安婦問題のような「ちゃぶ台返し」があったから当然だとはいえ、やはり本音は那辺にあるのか。関係修復は望むところながら、一件落着とはいえない両論併記である。
そんな新聞・メディアの論調・論法を旧態依然と思うのは、筆者だけだろうか。「解決策」に対する評価と警戒、いずれを強調し前面に出すかは、それぞれに異なるものの、言っている内容・表現に各紙大差はない。
要するに、同じ枠組みの横並びなのである。日本の新聞・メディアの韓国観が、日本基準の視座しかないことを表現するものにほかならない。
13日付、韓国の聯合ニュース(ネット日本語版)には、韓国大統領室高官の談話として、日本に対し「許すことのできない歴史が存在するが」、「われわれが道徳的優位性と正当性を確保したと考える国民もいるだろう」と伝えた。これで反対しかねない韓国民の一定の理解を得られるとみたわけである。たとえばそこが、伝えるべき要点ではないか。
「道徳的優位性」という韓国の基準は、およそ日本人に理解しがたい。国際法・国際合意に対する向背が基準だからである。
それなら国家国民のあり方が異なるのであって、関係の修復や悪化という次元の問題ではない。そこに着眼しないから、新聞・メディアの論調は大同小異なのである。日韓首脳会談の報道も、同断だったのはいうまでもない。
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【プロフィル】岡本隆司
おかもと・たかし 昭和40年、京都市生まれ。京都大大学院文学研究科博士課程満期退学。博士(文学)。専攻は東洋史・近代アジア史。著書に「『中国』の形成」など。